長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
76ページ/99ページ

天羽は蒼と一緒に、香穂子達の練習を眺めつつ、写真を撮っていた。
創立記念祭のパンフ用と、皆の記念の為に、写真を撮ってくれないか、と加地に頼まれたのだ。
やはりこのメンバーの写真を撮るなら自分しかいない。
天羽は一も二もなく快諾した。
そして、久々にファインダーごしから香穂子と蓮のツーショットを見る。
加地から二人のいきさつについては簡単に聞いていた。
…香穂子も蓮もそれぞれ色々あった。
だからなのかもしれないが、今の二人には、あの頃よりも更に濃密で強い絆を感じた。
そして、その理由の一つが、今、天羽の隣に座っている子なのだろう。
「ねぇ、蒼くん?」
天羽は蒼に尋ねた。
「お父さんとお母さんの事、好き?」
「うん」
蒼は香穂子達の事を見ながら頷いた。
「僕の自慢のお父さんとお母さんだよ」
そして、さらっとそんな言葉まで付け加えた。
「自慢かぁ。凄いなぁ」
「お父さんはヴァイオリンが凄く上手で、優しいけど、不器用なんだ。…言葉にするのが上手くないって言ってた。でも、ちゃんと僕を見てくれるんだ。お母さんもヴァイオリンが上手だけど、…ちょっと恐い時もあるんだ。でも、いつも僕の事を大好きって言ってくれる。だから僕も大好き」
「そっかそっか」
天羽は返事をしながら、ほっとしたように頷いた。
蒼は人への感情がかなり繊細のように見える。
そんな子供が、両親とはいえ手放しでここまで言えるのは、三人の間に確かなものがある証拠。
天羽はそれにほっとしたのだった。

練習も終わり、皆で少しくつろぐような時間になり。
何となく雑談が始まった。
「今日はかなり充実したよね。良かった」
「…柚木先輩、それ、嫌味ですか?」
香穂子がじとっと柚木を見ながら尋ねると、柚木はニッコリと微笑みながら答えた。
「やだなぁ、何で僕が嫌味を言うのかなぁ?」
…嘘つき。
香穂子には笑顔の下の本音が見えていたが、追求しないことにした。
「まあ、いざアンサンブル始めるって時に、色々あったがな。その原因が今じゃ涼しい顔しているんだから、気をもんだこっちが損した気分だ」
「「…」」
土浦の言葉に、香穂子も蓮も首を竦めた。やはり少し耳が痛い。
言い訳しようにも、まさにそうなんだから、できるものでもないし。
「でも、良かったよ。二人がもとどおりになって」
「そうですね。…先輩達が仲よさげにしていると…昔に戻った気持ちになります」
火原と志水の祝福にも、少し照れ臭い感じで二人は答える。
「本当にご心配おかけしました」
香穂子がペコリと謝った。
と。
「別に平気だよ。日野さん達が幸せならね。で…」
加地がおもむろに尋ねた。
「二人とも結婚式とかってどうするの?籍は入れるんでしょ?」
「「…え?」」
加地の問い掛けに、香穂子と蓮は顔を見合わせたのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ