長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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「ええと…入れる予定なんだけど…」
香穂子は困ったように視線を泳がせながら言った。
「香穂子の両親から、まだ了承を貰っていなくて」
「…え?」
蓮の話に、他のメンバーは固まってしまった。
「ちょっと行き違いがあってね…。うちの父、かなり頑固だから」
香穂子が苦笑しながら言った。
「…まあ、事情が事情だったからな。日野んちの親父さんも反対しちまうんだろうが…」
「そーいや、土浦んとこはどうだったの?」
どうも似たような展開があったと思われる土浦と冬海のところなら、何かいい案があるんじゃないのか?
火原は単純に考えて、そう尋ねたのだ、が。
「お、俺のところですか?さ、参考になんてなりませんよっ」
明らかに動揺を見せている土浦を見て、皆の標的が変わった。
「あれ?何で?少しは聞かせてよ〜?」
「そうよそうよ!こっちの話も私、寝耳に水だったんだから!」
「あ、あのなぁ今は俺の話より…」
「あれ?何かやましい事でもあるの?」
久々のかしましコンビからの攻撃に加え、にっこりとひとあたりのいい笑顔を見せながらの柚木からまで追撃され、土浦はたじたじとなった。
「おいっ、月森!日野をどうかしろっ」
「…俺も君の話に興味がある。是非聞いてみたい」
頼みの綱のはずの蓮まで、さらりと冗談なのか本気なのか分からないような事を言い出し、土浦は頭を抱えた。
「…別に面白くないぞ?子供が出来たっていうから、…あっちの両親に挨拶しただけで…」
「いや、だからそのあたりをですねー、詳しく…」
「…却下」
「土浦くんのケチ!」
香穂子がじとっと土浦を睨んだ。
だが、そんな事で土浦が怯むはずはなく。
「ケチで結構。それより、この練習のなかった期間に、お前と月森の間にあった事のほうが興味があるけどな?」
と、逆襲されてしまった。
「それは…、きっ企業秘密っっ」
「ほぉぉ?意味が分からないんですが?」
「え?何?すっごいドラマチックな事があったの?」
「確か病院で別れた時はまだ微妙な空気だったよな?それが今では、隙あらば結婚しようとか考えている位なんだからなぁ、短い期間に何があったやら」
「だよねぇ。月森に頼まれて蒼くんと会わせた時も、二人ともそんなそぶりなかったんだけど?」
更に加地まで加わって、香穂子は窮地に追い込まれる、が。
「悪いがそろそろ帰らないといけない」
蓮が香穂子の隣に立って言った。
「えー、何で?」
加地が不満げに尋ねると、蓮は小さくため息をついてから答えた。
「…蒼が眠そうだからな。送っていったほうがいい」
その言葉に、蒼の方にみんなが視線を送る、と。
蒼はこくりこくりと、舟をこいでいた。
「…今日は朝からはしゃいでいたからねぇ」
朝からお父さんに会えると楽しみにしていたのだ。
そして、ヴァイオリンの練習をしたり、香穂子達の練習を見ていたり。
そうしていつしか眠くなってしまったのだろう。
「…早く帰ったほうがいいね、これは」
加地がクスクスと笑いながら言ったので、皆の追求もここで終わったのだった。
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