長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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「じゃあ、今日はお疲れ様でした」
香穂子はそう言って蒼を抱っこしようとした。
だが。
「俺が抱いていったほうが早いだろう?」
そう言って、蓮が蒼を抱き上げたのだ。
「香穂子は他の荷物を持ってくれないか」
「あ、うん。…それじゃあお先に失礼します」
香穂子は蓮の言う通りに、荷物を持って部屋を出ていった。
「じゃあ、またね…っと…いやいや、すっかり家族だねぇ」
香穂子達が帰っていったのを確認後、加地が苦笑しながら言った。
「そうだな。ついこの前まではかなりぎこちなかったのにな」
「でも、やっぱりああいうのはいいよね」
「火原もそろそろ結婚したくなった?」
「えっ、まだ相手いないし…柚木、いいコいないかなぁ?」
「…なんで僕に尋ねるの?」
「…あ」
その場のノリに、皆が笑い出す。
「ま、まあ火原先輩の結婚はともかく…あの二人、式をすると思います?」
天羽が笑いを必死に抑えながら尋ねると、土浦が首を横に振った。
「すぐには厳しいだろ?月森も忙しいし」
「それに、日野さんも今更とか言ってやりたくても我慢しちゃうだろうね。写真を撮る位で…」
「ふむ…やっぱりみんなそう思うよねぇ」
天羽はそう言いながら、手帳を取り出したのだった。

その頃、香穂子と蓮は帰りの車でゆったりとした時間を過ごしていた。
「天羽ちゃんに会えて良かった」
「…そうだな」
蓮はそれについては複雑なところがあるが、香穂子の嬉しそうな姿を見て、それもいいか、と思った。…すっかり香穂子に甘くなっているとは自覚していないようだが。
「それに、あのノリ。なんだか高校時代に戻った気分」
「…ああ」
同じ制服を着て、学位の中をはしゃいでまわったあの時間。懐かしい日々。
「以前、金澤先生に言われた事があるんだ。コンクールメンバーには奇妙な連帯感が生まれるって」
「連帯感か…」
蓮はその言葉に納得してしまった。
どこにいても、どんな状況でも、音楽で繋がっている。
それは、香穂子だけでなく、あのメンバーとも。
そして自分達に深く関わった天羽や加地とも。
実は孤独に進んでいたと思っていた道も、いつの間にか皆と歩んでいたのだ。
だから、あの時以来の音合わせなのに、こんなにも息があうのだろう。
「音楽の絆か…」
「凄いよね、私たちって」
香穂子が妙に胸を張って言うので、蓮は苦笑してしまった。
「…なんでそこで笑うかなぁ?」
香穂子に睨まれ、蓮は焦った。
「い、いや、俺もそう思ったから…」
「本当にぃ?」
「ほ、本当だ。…あ、そうだ」
蓮は話を逸らすべく、なにかを思い出したように、話題を変えた。
「俺のコンサートのアンコールで、1曲でいい。…一緒に演奏しないか?」
「へ?」
いきなりの話に、香穂子はキョトンとしてしまった。
「アンサンブルの後すぐにある話だから、あまり時間がないのだが…以前会わせた事のあるものになってしまうが」
「ちょっ、ちょっと待って!」
香穂子はどんどん話を進めていく蓮を慌てて止めた。
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