長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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「え?コンサート?」
「言っていなかったか?創立祭の一週間後、市民ホールで…」
「いやいや、それは知っているわよ。そうじゃなくて、アンコールでデュエット?」
「ああ」
香穂子が聞き間違いかと思って再度尋ねたが、蓮は更に頷いた。
「な、なんで?」
「せっかくの凱旋公演なのだから、ちょっと趣向を凝らさないかと言われて…。なら知り合いでやろうかという事になったんだ。それで…俺は君とやってみたいと思ったんだ。…どうだろうか?」
「どうだろうかって…」
香穂子は言葉に困った。
凱旋公演なんて華々しいものに、自分が出てもいいのだろうか。
蓮のコンサートに、花を添えるなんておこがましいし、もしかしたら、せっかくのコンサートを壊してしまうかもしれない。
「…私自信ないよ?蓮の演奏を逆におかしくしちゃうかもよ?」
「それはない」
蓮はきっぱりと言い切った。
「この前合わせた時も、そして今日も、香穂子と音を合わせる事が心地良かった。…こんな気持ちになるのに、演奏をおかしくするはずはない」
「でも…」
「香穂子」
突然の話に戸惑う香穂子に、蓮は言った。
「俺は、日本で、この街で、あの場所で誰かと演奏するなら、一番最初は香穂子がいい。…香穂子しかいないと思っている。だから…」
「…分かった」
香穂子は小さく頷いた。
「天下の月森蓮様に、そこまで言われたら断れないもんね」
「…」
香穂子の言葉に蓮は少しだけ眉を潜めた。
…無理難題を押し付けてしまったのか?
だが、そんな様子の蓮を見て、香穂子はクシクスと笑った。
「…なんて、ね。…ありがとう、私を選んでくれて」
「香穂子…」
「蓮の気持ちに応えるべく、日野香穂子、頑張りますっ」
「こちらこそ頼む」
蓮はふわりと微笑んだ。
「演奏曲は後で決めるとして…どこかで合わせなきゃいけないわね」
「練習の日程とか、リハーサルとか…決まったら連絡する」
「うん。あー、あとは演奏の時のドレスとか…忙しくなるわね」
「すまない」
「いーえ!何だか楽しみになってきちゃったな」
二人がそう言いながら、微笑みあっているうちに、車はいつの間にか香穂子の家まで来てしまった。
香穂子が荷物を持ち、蓮がすっかり寝てしまった蒼を抱き上げる。
そして、ドアのチャイムを鳴らし、家の中に入る。
「ただいま〜」
「おかえり」
香穂子は家の中に入って驚いた。
父が香穂子達を待ち構えるかのように立っていた。
「…こんばんは」
蓮が挨拶をすると、香穂子の父は小さくため息をついて答えた。
「やはり来たか…とにかくあがりなさい」
「やはりって…お父さん?」
父の言動に香穂子が戸惑っていると、父は小さく頷いた。
「今日辺りには話に来ると思っていた。…こんなところではなんだから、あがりなさい。蒼も早く布団にいれたほうがいい」
「…はい、では失礼します」
蓮はそう頷くと、家の中に入ったのだった。
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