長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
8ページ/99ページ

「相変わらずだね、あの人は」
柚木は理事長が出ていったドアを見つめながら言った。
「あー、でも昔に比べたら、いくらかは柔らかくなったんだよ、あれでも」
「…人を脅して有無を言わせずにこういう事をさせてでも、ですか?」
「あははは…」
土浦が嫌みよろしく言うのを火原は受け流すように苦笑して答えた。
「でも…やると決めたからには、完璧なものにしたいですよね…」
志水がほんわかと言った。
「みんなそれぞれ仕事もありますし…、練習とかどうしましょう?」
冬海が心配そうに尋ねた。
「そうだな…」
蓮は淡々と答えた。
「まあ、今日はその辺りの事を決めて、あとは…軽くスケジュールを決めようか」
あの頃と同じように、柚木がみんなを取り纏めるように言った。
「曲は…次の集まりまでにそれぞれで選んできて、その中から選びませんか?多分直ぐには決まらないと思うので」
「そうだね。あとは…出来るだけ定期的にみんなで会えるようにしようか。仕事とか出来るだけ調整して。場所は…」
「ここでいいんじゃない?練習室とか音楽室とか、俺が理事長にかけあっておくし」
「練習は毎週決まった曜日と時間を決めておきましょう。皆の都合は?」
「土曜か日曜の午後はどうですか?」
「まあ妥当だな」
「みんな何かとあると思うけれど、これが終わるまでは日曜午後は練習を出来るだけ優先させてもらって…」
「そうですね、それから…」
あの頃と変わらない様子で、さくさくと話が進んでいくのを、香穂子は目を細めながら眺めていた。
…あの頃に戻ったみたいだ。
そう思っていた時だった。
「…って事で、日野いいか?」
「…へ?」
いきなり名前を呼ばれ、香穂子は目を丸くした。
その様子に、土浦は少し呆れた顔を見せた。
「おいおい、しっかりしてくれよ、『リーダー』」
「は?」
香穂子は何を言われたのか分からず、思わずキョトンとしてしまった。
「だから、今回のアンサンブルのリーダー、日野、お前に決まったんだよ」
「って、ええっ」
香穂子はガタリと立ち上がった。
「な、なんでっ?」
「このメンツを纏めるのに適した人材はお前だけだからだよ」
「日野さんも色々忙しいと思うけれど、やっぱりここは、ね?」
加地が含みを持たせるように、目配せをしてきた。
その意図が何となく分かり、香穂子は仕方ないといったようにため息をついた。
「分かりました。…じゃあ後でメアド交換させてくださいね。何かあったら連絡しますから」
「…?先輩、携帯変えたんですか?」
志水がずばりとしてきて、香穂子は一瞬息を呑んだ。
「あ、うん。ちょっと色々あって、番号もアドレスも変えちゃったのよ」
香穂子は少し焦りながら、言い訳するように言った。
「なんだ、だから今まで連絡つかなかったのか」
土浦が呆れたように言った。
「うん、ごめんねー、みんなにも連絡しようとしたんだけれど、バタバタしていて、出来なかったのよ」
「そっかー。でも今まで日野ちゃん何していたの?」
火原が尋ねてきた。
「まあ、ちょっと色々と、ですね」
「へえ?その色々って何かなあ?」
柚木がにっこりと笑った。
そして。
「せっかくだから、これから皆でお茶しにいこうか?近況報告会も兼ねて」
そんな一言で、香穂子は半ば強制的に連行されたのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ