長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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蒼を布団に寝かしつけ、蓮はリビングに向かった。
そして、少し緊張した表情をした香穂子の隣に座った。
「今日お伺いしたのは…先日の話をきちんとしたくて…その…」
蓮はひと呼吸置いて、真っ直ぐ香穂子の父を見ながら言った。
「今まで彼女を泣かせた分、いや、それ以上に幸せにします。だから、香穂子を僕に下さい」
「…」
香穂子の父は何も言わずに、蓮を真っ直ぐ見つめた。
そんな視線に負けることなく、蓮は強い瞳のまま、香穂子の父を見ていた。
そして。
「…それは本当だな?」
と蓮に尋ねてきた。
「はい」
「香穂子はずっと君だけを好きで、その一途さだけで蒼を産み、君の夢を守る為に黙って色々なものを堪えてきた。…それらを全て受ける自信はあるんだね?」
「はい。彼女には色々なものをもらい、夢を叶えさせて貰いました。…今度は俺がそれを返していきたいと思います」
蓮のそんな強い決意に、香穂子の父は深いため息をひとつついた。
そして。
「…香穂子を幸せにしてくれればいい」
と言ったのだ。
「お父さん…ありがとう…」
香穂子の瞳から、ポロポロと涙が零れてきた。
「ありがとうございます」
蓮は深々と頭を下げた。
そんな二人に、香穂子の父親は笑いながら言った。
「二人で幸せになりなさい」
、と。
そして、香穂子の母が入れてくれたお茶を飲みながら、今後の話が始まった。
「式はどうするんだ?」
「…どうって…すぐには出来ないし…」
香穂子は迷いながら答えた。
「蓮の仕事のスケジュールから見ても、今から計画してもしばらく先になりそうでしょ?」
「…俺の仕事は気にしなくていい。都合はつけるから」
「でも、まだしばらくは海外が中心になるでしょ?そのなかで打ち合わせとかって大変だもの。それに、…今更って気もしないでもないの」
香穂子は苦笑しながら言った。
やはり女の子としては、花嫁は憧れだったけれど。
自分のわがままで蓮に面倒をかけたくない。
それに、なんとなく自覚がない、というのもある。
「だから、写真だけでいいや」
「香穂子…」
蓮は眉間に皺を寄せた。
それを見た香穂子は苦笑して答えた。
「嫌ねぇ、無理はしてないわよ。本当にそう思っているから」
「…分かった」
蓮は釈然としないものを感じながらも、小さく頷いた。
「まあ、香穂子がそう言うのなら」
香穂子の両親もそう言って納得した。
と、その時。
「お腹すいた〜」
と蒼がやってきた。
「あら、起きちゃったの?」
「…うん。あれ?お父さん?」
蒼は目を丸くしながら蓮に近づいた。
「どうしたの?」
「少し話をしていたんだ。…そろそろ帰るが」
蓮のその言葉を聞くと、蒼はがっかりとした表情となった。
「帰っちゃうの?」
「ああ…」
「…」
更に落ち込む蒼に、香穂子も困ったように腕を組んでいると。
「お前達、ご飯まだなんだろう?それから蓮くん、今日は泊まっていけばいい」
「…え?」
香穂子の父の提案に、蓮は驚いた。
「なにか不都合さえなければなんだが…どうだ?」
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