長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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香穂子が、かちゃりとドアを開き、楽屋の中に入ろうとすると。
「待ってたよん」
と天羽の声が聞こえてきた。
「あれ?天羽ちゃんと…」
香穂子は天羽を確認しながらそう言っていたのだが。
天羽の隣に立つ、見知らぬ女性に、首を傾げた。
「…誰?」
香穂子がそう尋ねると、天羽はニッコリと笑いながら答えた。
「スタイリストの安西さん。写真を撮ったりする時に、いつも助けてくれる、信頼できる人よ」
「はじめまして」
安西と紹介された女性は、香穂子の前に立つと、ぺこりと頭を下げた。
「…はあ」
だが、何故天羽が自分の仕事相手をここに連れてきたのか香穂子には全くわからなかった。
「天羽ちゃん?」
「おおっと時間がない。安西ちゃん、ぱぱっとお願いしますっ」
「了解!」
天羽は香穂子に質問させる間もないくらい、手早く安西と共に、香穂子をドレッサーの前に座らせた。
そして、安西はすちゃすちゃと自分の仕事道具らしきものを取り出した。
「流石天羽さん、髪のアップはバッチリですよ!」
「さぁんきゅっ」
天羽が満足げに頷いた。
確かに今日の仕度も、天羽が手伝ってくれてはいた。
今回はちょっと大人なドレスだったので、髪をアップに結い上げてくれたのだ。
だが、それがいったいなんだというのか、香穂子にはさっぱりわからない。
混乱する香穂子をよそに、天羽と安西はせわしなく動きだす。
「じやあ、ちょっとメイクを直しますね」
安西がクレンジングをコットンに落とし、香穂子の目の周りや口紅を落としていく。
「私はこっちを準備しとく」
天羽はそう言って、香穂子の後ろで何かごそごそしだした。
「…と、後は口紅をつけて…と……天羽さん、メイク完了しました」
「オッケー!ヘアアレンジの仕上げはこちらに着替えてからにしますか。香穂子、こっちに来て?」
「…天羽ちゃん?」
香穂子は更に眉をひそめた。
一体何をしようとしているのか、それもまださっぱりわからないのに、天羽の前には、ドレスがあとは中に入ってください、とばかりに広げられているのだ。
「いいからいいからっ!それをさっさと脱いで、こっちに着替えて!」
「わわっ!」
天羽は香穂子の後ろに回り、背中のファスナーを下ろす。
更に、ドレスをさくさく脱がせると、腕を引っ張り、先程用意したドレスの輪の中に香穂子をいれた。
そして、そのドレスを手早く着せて、後ろのファスナーを上げると。
「最後の仕上げお願い!」
再び安西にバトンタッチ。
「はいはい。えーと、イヤリング…ネックレスに…最後にこれ、と」
安西は香穂子の髪にウエーブのついたエクステンションをつけ、更にティアラを固定する。
「完成!」
…香穂子は鏡を見て驚いた。
「これ…!」
「ふっふー♪びっくりした?綺麗だよ、花嫁す・が・た」
確かにそこには、白いウエディングドレスを着た、花嫁姿の香穂子がいたのだった。
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