長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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香穂子は呆然と、鏡の中の自分を見つめた。
いや、ただぼうっとしていても訳が分からないままなので、くるりと振り向き、天羽に尋ねた。
「これっ、どういう事よ!」
「んー?見たまんまよ」
「いや、見ても分からないし」
香穂子は眉を潜めた。
「確かにこれはまごうがなく花嫁姿だけど、なんで?これからコンサートの打ち上げに行く…」
「んじゃないんだなぁ、これが」
天羽はそう答えると、ニヤリと笑った。
「詳しくは、この後行く場所で、月森君自身に聞いてごらんなさいって」
そう言われ、香穂子は背中を押され、楽屋を出されてしまった。
「あ、あの…」
「ほれほれ、そこまでは柚木先輩が送ってくれるって、待たせているんだから早く早く」
天羽は更に香穂子の手を引っ張り、スタッフの出入口まで連れて行く。
途中でであった蓮のコンサートスタッフ達は、この騒動を承知しているようで、皆、香穂子を見ると「おめでとうございます」と言ってくれた。
そして、出入口の側には、柚木が自分の車の側で待っていた。
「ようやく来たね、花嫁さん。ご主人は先に行って、君を待っているよ」
そう言いながら、香穂子を車に押し込めるように乗せた。
「じゃあ、私はこちらを片付けてから、向かいますね」
天羽は走り出す車に向かって言ったのだっだ。
「…あのー、状況がまったく見えないんですが?」
香穂子は隣に座る柚木に尋ねた。
「まあ、そうだろうね。君に黙って企んでいたことだからね」
柚木はしれっと答えた。
「せ、先輩?!」
「…俺に怒鳴るなよ。お門違いもいいところだ」
小さなため息をつきながら、香穂子の問い掛けに柚木は答えた。
「そもそも、この企みの首謀者は、月森なんだぜ?俺はそれを成功させる為に、手伝っているだけだ」
「た、企みって…?」
肝心の事を濁らせる柚木に焦れて、香穂子は再度尋ねた。
だが、柚木はそれにはニッコリと微笑んでケムに巻いた。
「それは、行けば分かるよ。それに、文句は月森に言えって。…まあ、文句にはならないだろうがね」
クスクスと笑う柚木に、香穂子はむっと睨んで返した。
「…私があわあわしているのを、楽しんでいませんか?」
「こんなに楽しい見世物はないからね。…本当にお前、というかお前達は面白いよ」
「…私も蓮も、先輩のおもちゃじゃないんですけど?」
「おもちゃ、ねえ?それよりも面白いものだとは思っているけど?」
「…」
香穂子は深いため息をついた。
今日はなんという日なのだろうか。
「…後でみんな纏めて締め上げてやる」
「…花嫁が物騒な事を言うね?でも…それが出来るかな?」
柚木はクスクスと笑いながら言った。
「俺は絶対に出来ないと思うし、やるなら月森にだけになるんじゃないかな」
「…」
先程からそれを繰り返すという事は、この香穂子がぐるぐる目眩を起こしている原因は蓮に多分にあるようで。
…後で蓮を追い詰めてやる。
と、香穂子が意気込んでいると。
「ほら、そんなに眉間にシワを寄せているなよ。もうすぐ目的地に着くんだから」
柚木は苦笑しながら言った。
「…目的地?」
「そう、ほら見覚えがない?」
車が曲がった先の風景を、香穂子が眺める。
…そこは確かに香穂子の記憶をさそう場所だった。
そして、流れるメロディー…。
「…ここって、初めてアンサンブルコンサートを開いた…」
香穂子の問い掛けに、柚木は小さく頷いた。
「そう、高校の時に、お前が月森と志水くんと冬海さんとコンサートをした、あの場所だよ」
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