長編・シリーズ

□reunion
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二人はカフェテリアに着くと、昼食を注文し、空いている席に着いた。
…我ながら大胆な事をしていると思う。
こうして食事に誘うなんて、あの頃には考えもしなかったのに。
昼休みに偶然会って、その流れで、という事はあったが。
でも、自分から誘うというのは初めてなのだ。
「確かに高校のカフェテリアと変わらないな」
蓮が懐かしいといった様子で話した。
「でしょ?私も初めて来た時びっくりしたもの」
蓮の様子に、香穂子も嬉しくなって言った。
「…メニューもかなり同じものがあったな」
「まあ、この学院の高校は、ちょっと特殊みたいだからねぇ」
香穂子はほぅと息をつきながら言った。
「加地くんも、転校してた時にびっくりしてたし。前の学校もわりかし自由だったけど星奏学院は更に違うって。大学からの友達も、話には聞いていたけどって、びっくりしてた」
「…そうか」
「まあ、私自身、他の学校を知らないからねぇ」
「……まあ、妖精のいる学校というだけで、他とは違うんだろうが…」
蓮は少し遠い目をしながら言った。
「そうねぇ、でも学院出身者だって、リリ達の存在は知らない人多いんだけどね」
「そういえば、リリはどうしているんだろうか」
蓮は懐かしい名前を聞いて、そんな事を呟いた。
「ああ、相変わらず元気よ。高校に行くたびに、びっくりさせられるくらい。いたずらずきも相変わらずなんだから」
香穂子は、ふぅっと息を吐いた。
普通はコンクールのあと、対象者も見えなくなる音楽の妖精。
だが、香穂子はひょんな事から、いまも彼(?)らが見えるのだった。
「…そうか」
香穂子の困った様子が可笑しかったのか、蓮がクスクスと笑うと、香穂子は少しだけむっとしたように反論した。
「もう、笑い事じゃないんだからねっっ!いきなり出てきたりして、びっくりした声を思わず上げちゃうんだから。…その時の周りの様子ったら…穴があったら入りたいって、毎回思っているのよ」
「それは…大変そうだな」
「理事長に、どうにかなりませんかって聞いたら、『慣れろ』の一言よ?もう、だれもがあんなクールにできないってば」
「…まあ、な」
蓮はクスクスと更に笑った。
「だから、笑い事じゃないんだってば」
「いや、すまない」
そう言いながら、笑いをこらえようとしているらしいが、…どうもこらえきれないらしい蓮に、香穂子は更にむっとなった。
「…今度リリにお願いして、月森君も同じ目に合わせてやるっっ」
「…それは無理だと思う。俺は今、リリ達達は見えないからな」
「…それでも何かしてやる」
本当に悔しいのか、香穂子がそんな風に呟くのを、蓮は聞き逃さなかったのだった。

そんな懐かしい思い出話に花を開かせ、ひとしきり話をした後、二人はカフェテリアを出た。
そして、今度こそ、香穂子がよく使う練習場所を教えてくれた。
「今度からここを使って?あまり人も来ないから、練習に集中出来ると思うし」
「ありがとう」
「私は午後も講義があるから…後で練習場で会いましょう」
「ああ…じゃあ、また」
二人はその場で一旦別れた。
…香穂子の心に甘い痛みを残しながら。
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