長編・シリーズ

□reunion
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「月森くんも香穂子が嫌だって言えば、『ごめん』って謝って、それで止めてくれたと思うけどね。ま、女の子としては、そういう事を平気で出来ちゃう辺りでアウトの場合があるけどね」
天羽はちらりと香穂子を見ながら言った。
「でも…私は抵抗しなかった。だって抵抗出来る訳ないじゃない?後悔してもいい、今はこの人が欲しいって思っちゃったんだもの…」
「まあ、香穂子はねぇ、好きな気持ちが積もり積もっちゃったって感じだからねぇ」
「…」
高校の時から、この親友の事を見ていた天羽は、何でもお見通しだ。
あの頃から、香穂子がどれ程蓮が好きだったか。
そして、その恋の為に、他の人を見る余裕がなかったか。
高校時代は報道部員として、学校のあらゆる事につっこんできた。
その中には、恋愛関連のものもあったが、香穂子のような恋は見た事はなかった。
静かでひそやかで、だけど誰よりも熱い恋。
『運命の恋』なんて使い古した言葉は使いたくなかったけれど、それ以外には思い浮かばない。
それこそ伝説の『ヴァイオリン・ロマンス』のようだ。
…確かに香穂子も蓮も、学内コンクール経験者で、ヴァイオリニストで、その条件は誰よりもあったりするのだが、そんな伝説をこんな身近で起きるとは思ってもみなかった。
「うーん、やっぱり附属の大学のほうに進学すれば良かったかな?」
天羽は外部の大学に進学した事を少しだけがっかりした。
「なんで?」
香穂子が尋ねると、天羽は残念そうに眉を寄せながら答えた。
「こんな面白い…いや、なかなか滅多にお目にかかれないような話、間近で取材できるんだったら、って思ったらさぁ」
「…」
香穂子は天羽の記者魂に呆れた。
「あ、でも加地くんに頼んで、見聞きした情報を横流ししてもらって…」
「…天羽ちゃん?」
香穂子はとんでもない事を言い出す天羽をギロリと睨んだ。
「や、やだやぁ、冗談だってば」
「天羽ちゃんの場合は、冗談が本気になる時があるから怖いっての」
香穂子は天羽をじとりと睨んだ。
「いや、でも今は学院の生徒じゃないし、まあ、個人的興味と心配があるから、さ」
「…ほどほどにしておいてね」
天羽の心配は本物だと香穂子も分かってるので、あまり厳しい事は言えず、軽く注意だけすると、天羽はこくりと頷いた。
「はいはいっと。あ…とこれは個人的に興味があるんだけど…」
「ん?」
キョトンとする香穂子に天羽はニヤリと笑って尋ねた。
「月森くんて…えっち上手だった?」
「なっ、何聞くのよっっ!ては私も初めてで上手いかどうかなんて分かる訳ないでしょっっ!」
「あ、そうか」
「もうっ、そういう下世話な話しようものなら、取材、させないから」
「あははっ、それは困るわ」
「まったく…、お互い無我夢中だったから、そんなほうまで気が回る訳無いっての」
「…そんな事考えさせないくらい、月森くんに溺れた訳だ」
「…天羽ちゃん?」
「あ、あはははっ」
香穂子の周りの空気が淀むのを感じて、天羽は笑ってごまかした。
そんな楽しい(?)女の子トークを繰り広げ、二人は店を出た。

そして。
「…今の話…まさか…」
同じ店に早水が居合わせ、話を聞かれた事を香穂子は気付かなかったのだった。
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