長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
14ページ/260ページ

用事を済ませ、学院を出て、律は寮へと一人で帰った。
その道すがら、ふと頭に浮かんできたのは、かなでの事だった。
律にとっては大切な幼なじみ。妹のような存在…だと思う。
だと思う…のは、ではどういう存在なのか?と問われると、自分でも分からないからだ。
そう、妹…ではない。戸籍的にも。
自分には響也しか兄弟はいない。
だけど、周りに年の近い子供が少なかったし、かなでの祖父の工房が好きで、入り浸っていたから、何となく自分に近しい女の子となっていた。だから『妹のような存在』なのだが…。
でも、それも違う気がする。
三年前、自分の進路の事で、かなでに泣かれそうになった時、胸が痛くなった。
自分の中のかなでは、いつもふわふわと笑っていたから。
離れていても、ふと何かのきっかけで思い出すのは、笑顔であって欲しかったから、…そんな顔を見たくなかったのかもしれない。
かなでの笑顔を思い出せば、幸せな気持ちになる、だけど、悲しい顔を見れば、胸が痛くなる、そんな存在の事を、どう表現したらいいのだろうか。
かなでが泣く所を見たくなくて、こちらに来るまで避けるようにしていた。
別れの時も見送りは不要と、親でさえ断った位だから、かなでが来る訳がなく。
だけど、その分だけかなでの笑顔でなく悲しい表情だけが律の胸に焼き付いてしまっていた。
そして今日。
その記憶を必死に追いやり、自分の道を邁進していた所に、ひょっこりと現れた彼女。
嬉しそうに、律を見つめる姿に、律の心は波立つ。
たった三年別れていた間に、かなでは大人っぽくなった。
ふわふわとした所はあまり変わらないが、その中にも少し落ち着いた雰囲気を持ち合わせ初めて…。
「…何を考えているんだ、俺は…」
律はため息をつきながら呟いた。
今は余計な事を考えている暇はない。
この夏、自分がしなければならないのは、学院にトロフィーを持ち帰る事。
そのために全力を尽くす事なのだ。
「…そのために必要なのは…」
律は自分の腕をぐっと握りしめたのだった。


その日の夜、かなでは慣れないベッドの上で寝返りをうちながら考えていた。
「…律くん、かっこよくなったなぁ」
もともと美形だったが、まだ幼さの残っていた三年前に比べると、背も高くなったし、どっしりと落ち着いた雰囲気があった。
でも…、とかなでは苦笑してしまう。
…でも、言葉足らずの不器用で鈍感な所は変わっていない。
そのあたり少しは変わっているか、と期待していたのだが。
だけど、空気を読めて段取りが良くなった律、というのも変な気がするので、やはり今の律でいいのかもしれない。
…もう少し響也と理解しあえれば更にいいのだが。それは響也も悪い部分があって、どっちもどっちなのだけれど…。
こんな形で再会することになった幼なじみを思いながら、かなではうとうとと眠りについたのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ