長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「まあ、俺が思っていたよりは良かった」
土浦は苦笑しながらかなでに答えた。
「じゃあ、どうしてですか?」
「理由は二つある。…一つは…2ndがやっぱりまだまだ本領を発揮していない事」
土浦はちらりと響也を見ながら言った。
それは…当の響也も分かっていたらしく、少しバツが悪そうに土浦から視線を外した。
「でも、最初に聞いた時よりよくなってきたからな。準決勝までの間に何とかなるだろうけど」
「じゃあ…もう一つは?」
「お前らの合格点を上げさせて貰ったから」
土浦がきっぱりと答えると、皆が不満そうな表情になった。
「そんなぁ」
「仕方ねぇだろ?…俺もちょっとした休憩の後に、こんなに伸びるとは思わなかったんだからな」
土浦は困ったように笑いながら、その真意を伝えた。
「多分お前達は今ここがゴールって思う場所が見えていたと思う。だけど…それはまだ中間点に過ぎなかった。…多分お前達はもっと伸びる。そういう奴らの合格点が低いってのは、あまり良くないだろ?」
「はあ…」
かなでは不本意そうに頷いてみせた。
「あははっ、まあこのおじさんは少し意地悪なところがあるけど…」
香穂子はそんなやり取りを笑いながら聞いていた。
「おじさんじゃな…」
「でも、私も土浦くんと同意見。かなでちゃんが一気に伸びたのかな?それにみんなが引っ張られて良くなってきた。だから、あと少し、もっと引き出しを広くしてみて?」
「…はい」
二人の大先輩にそこまで言われてしまえば、後輩は引き下がるしかない。
かなでは渋々頷いた。
「あ…でも頑張ったご褒美は欲しいですよね?」
だが、冬海がそんなかなでを励ますように言った。
「…え?」
「ふ、冬海ちゃん?」
「香穂先輩、いいですよね?」
冬海はニッコリと微笑みながら尋ねた。
…香穂子は昔からこの笑顔に弱い。だから、無自覚だとは思うが…この冬海の作戦は効果絶大で。
「いっ、いいわよ」
と思わず頷いてしまった。
「ありがとうございます」
冬海はうれしそうにお礼を言うと、かなでに笑顔で言った。
「ヴァイオリン・ロマンスは、この学校に棲む音楽の妖精の魔法なの」
「音楽の…妖精?」
この学校に来てから、学院七不思議の一番にあげられ、よくその名前を聞くそれを、『らしい』でなくいる事が前提なようにいう冬海に、かなでは軽く目を丸くした。
「ええ。ちょっと悪戯が好きだけど、とても優しいの。…そんや妖精が、素敵な音楽を聴かせてくれたお礼に、頑張った人と好きな人が結ばれますようにってかけてくれる魔法なんです。…香穂先輩と月森先輩は、そんな魔法をかけられたから、素敵な恋をしているんです」
「…冬海ちゃ…」
「素敵な恋ですか?」
冬海の話に困惑する香穂子を尻目に、冬海はかなでに頷いて答えた。
「ええ…、だって今も昔も…、私の理想は二人のような恋なんですもの」
「…ったく彼氏前にしてこう言うんだからなぁ」
土浦は苦笑しながらそんな恋人を見たのだった。
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