長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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翌朝から、かなでは隣人と衝撃的な出会いをしたり、慣れない学院生活にいっぱいいっぱいだったり。
大地と響也とオーディションに向けての練習をしたり。
目まぐるしい日々を送っているうちに、そのオーディションの日となっていたのだ。
終業式が終わり、そのあと音楽室でオーディションが始まる。
その前に少しお腹に入れるものを、と、かなでは学校側にあるコンビニに向かった。
コンビニで精算をしていると、隣のレジにひょっこりと顔を現したのは、寮の隣人の支倉ニアだった。
「おや、君も買い物か?」
「あー、うん。オーディション前に少し食べておこうかなって」
「…にしては少し多くないか?」
ニアはかなでの前にどっさりあるパンを見ながら言った。
女子高生が食べるにしては、…たとえかなでが痩せの大食いだとしても、多すぎるのだ。
「んー?大地先輩や響也から頼まれたの。ついでにって」
「…それならどちらかに頼めば良かったんじゃないのか?男のほうが力がある」
「でも、私がコンビニに行くんだけど何かありますか?って聞いたから…。それに、これくらいなら大丈夫よ」
かなでの呑気な様子に、ニアは少し呆れたように言った。
「君は少しお人よしな所があるな」
「えー?そうかなぁ」
「自覚ないのか?なら、少しは気をつけていたほうがいい。誰かに騙されるかもしれないからな」
「そっ、そんな事ないわよ?」
かなではブンブンと首を横に振った。
流石にそこまでお人よしではない…と自分では思っている。
「まあ、そんな所が君の魅力なのだろうから、下手なものに騙されないように気をつけていればいい」
そんな無自覚なかなでを相手に、ニアはニッコリと微笑みながら言った。
…それは褒められているのだろうか?
いささか不安になりながらも、かなで達は学校に戻るべく、店を出た。
「ニアはこれからどうするの?」
「私か?勿論オケ部のオーディションを見学させていただく。こんな面白い見物、滅多にないからな。それに、如月兄弟や榊、水嶋など、話題にしても面白いし、わが部の財政を潤してくれる奴らが揃っているからな」
「?なんで律くん達が?」
彼らの記者が…という訳でないだろう。校内新聞は無料のはずだ。
「まあ、それはおいおい分かる」
ニアは意味ありげにニヤリと笑いながら答えた。
「それより、噂の君達は、オーディションに受かりそうか?」
そして、ニアが意味ありげに尋ねると、かなでは言葉を詰まされた。
「わかんないなぁ。受かりたいけどこればっかりは、ね」
「なんだ、自信ないのか?」
「んー?ほら、私転校したてだから、みんなの音楽の素養が分からないし。…後はどうアンサンブルを組むかなんて分からないから…。あ、でもニアが応援してくれてるなら、頑張らなきゃね」
「そうだぞ?二人しかいない女子寮生仲間同士ということもあるが…報道部としても、より話題性のある輩が目立つほうが記事になるからな」
「…」
やっぱりそっちなんだ。
かなでは困ったように笑いながら、学院の門をくぐった。
そして、目の前の銅像の前に、青年が一人、像を見つめながら立っていたのに気がついたのだった。
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