長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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その青年をかなではどこかで見た事があるような気がした。
それは身近であるような…でも違うような。
そんな事を考えていると、隣を歩いていたニアも青年に気付いたようで、ニヤリと笑った。
「あれはヴァイオリニストの月森蓮ではないか?」
「え?」
「おや?知らないのか?この学院のOBで、世界中で活躍している…」
「名前は知ってるよ?でも、この学院の出身だったんだ」
「…本当に君は何も知らないんだな」
ニアは呆れたように言った。
そして、その言葉に少しむっとしたかなでを無視し、すたすたと蓮に近づいていった。
「ここで一体何をしてるのだ?」
「…君は?」
声をかけられた蓮が、ニアを見ながら尋ねた。
「私は星奏学院二年の支倉という。確かここのOBの月森蓮氏、だよな?」

「そうだが?」
蓮が不審げに頷くと、ニアはニッコリと笑いながら更に尋ねた。
「いまや世界を舞台に活躍している、わが学院が誇るOBが、なぜ今時期にここにいるのか…それを尋ねたいのだが?」
「…それを君に話す理由が俺にあるのか?」
蓮はジロリとニアを睨みながら言った。
だが、それ位で怯むニアではない。
笑顔を崩さず、さらりとそれに答えた。
「まあ、報道部としては格好のネタになりそうなものに食いつかない訳にはいかない、というのが答えになるかな?」
「ならば断る。俺には君の質問に答える義務はない」
蓮はそう言うと、ちらりとかなでを見てから、どこかに言ってしまった。
「うーん、やはり取材嫌いでも伝説なだけあるな」
「…ニア、初対面の人にいきなり取材はダメだよぅ?」
かなでは親友の困った癖に、少し窘めるように言った。
「そんな事を言っていては、取材というのは出来ないんだがな?」
「…でも、超有名人でも躊躇いなく突進できるその性格が少しうらやましいよ」
かなではため息をつきながら言った。
自分は幼なじみに久々に会っただけでも上手く話せないのに。
「…おや?ならば私の爪の垢でも煎じて飲んでみるか?そうしたら、少なくとも如月兄とスムーズに話せるかもしれないぞ?」
かなでの気持ちをどう察したのか「…!」
、ニアがニヤリと笑いながら言った。
「如月弟とは猫の兄弟のようにじゃれあえるのになぁ?」
「…そのたとえ、おかしくない?というか、ニアどこまでしっているのよ?」
「さあな?それより、そろそろ行かないと、オーディションが始まってしまうんじゃないのか?」
ニアは笑いながら、話をはぐらかすように言った。
慌てて時計を確認すると、確かにご飯を食べられるぎりぎりの時間になっていて。
「わわっ、早く行かないと、響也に怒られちゃう」
「…既に怒られる時間ではないかな?」
「急がなきゃっ」
かなでは慌てて走り出し、ニアはそんなかなでを笑いながらついていって、講堂に向かったのだった。


講堂内にある控室では、案の定響也がイライラしながら待っていた。
「遅いっ!」
「ごめんね、響也。ちょっと校門前でいろいろあって…」
かなではペコペコと響也に謝ったのだった。
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