長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「…まあ、無事に帰ってきたからいいけどさ」
かなでのそんな様子に、響也はほっと息をつきながら答えた。
そんな響也を見ながら大地はニヤリと笑った。
「大丈夫。響也は怒っていた訳じゃないよ?ただ心配していただけだ」
「…!だっ、大地!」
「ほら、図星だ」
大地にからかわれ、響也は真っ赤になる。
「とっ、とにかく飯、早く食っちまおうぜっ」
これ以上何かリアクションすれば、更にからかわれると思い、響也は話をそらすように言った。
「はいはい」
三人はかなでの買ってきたパンを食べながら、試験用の楽譜を確認した。
「あれだけの人数から、どれくらいのメンバーが選ばれるんだ?」
「うーん、4・5人位?室内楽だし、あくまでアンサンブルだらかね」
「ふぅん」
「何年か前に、やたらとアンサンブルに熱心な年があって、おかげで選曲に困らない位、いろんな楽譜があるから、助かるけどね」
「何年か前…」
かなでは呟きながら、先程すれ違った蓮を思い出していた。
「ん?どうかしたのかい、ひなちゃん?」
「あ、…さっき月森蓮とすれ違ったから…そのアンサンブルにこっていたのって、あの人達がここにいた頃かなぁとか…」
「え?月森蓮?マジで?!」
響也は驚いたようにガタリと立ち上がった。
「うん。間近で見れたんだけど…ニアが取材させてくれって言ったら、断られちゃった」
「支倉、心臓強っ。てか、月森蓮って大の取材嫌いで有名だから、即座に断ってくるだろうけどさ…」
響也は嬉しそうに興奮しながら言った。
「この前の日野香穂子といい、やっぱり卒業生に有名人のオンパレードだと、それだけで転校してきた意味はあるよな」
「そうかい?」
「…って、大地、こんだけクラシック界の若手音楽家に転校してきて数日だけで会えているんだぜ?興奮しないほうがおかしいって」
「いや、僕はクラシック界はよく分からないから、どれだけ凄いかは分からないけど」
「おいおい」
「音楽科の君達は当たり前かもしれないけど、普通科だと演奏家までは詳しくはないよ。よっぽど趣味でないとね」
「そんなもんか?」
「そんなもん、そんなもん。あ、でも響也がそれだけ興奮する位なら、どれだけの演奏家なのか、ちょっと興味があるかも。今度準備室を漁ってみようか?意外な人の演奏が録音されたものが見つかるかもしれないよ」
「うわっ、マジでっ?それやってみてーかもっ」
大地の提案に響也が嬉しそうにに答えた。
かなではそれを見ながら、律の事を考えていた。
…そのお宝探し、律くんも一緒にやってくれるかな?
昔三人でやった田舎の探検の時のように。
「…っとそろそろ時間だね。行こうか」
大地が時計を見ながら言った。
確かにちょうどいい頃合いだ。
三人は楽屋を出て、講堂の舞台袖に向かったのだった。

そして、三人が舞台袖に到着すると、ちょうど律とハルの演奏が始まるところだった。
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