長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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三人の演奏は素晴らしいものだった。
それは、他の部員も認めるもので、部に入りたての響也やかなでの実力に、文句はなかった。
「それで?…どうするの?」
大地が律に尋ねると、律は静かに答えた。
「俺と水嶋、それからお前達三人で決定だ」
「あ、やっぱり?」
大地はニッコリと微笑みながら答えた。
そして、ふと真剣な顔になり、尋ねた。
「ヴァイオリンが律に響也にひなちゃん…、やっぱり…」
「ああ。明日響也達にはそれを話す事にするが…、俺は課題曲のファーストに専念したい」
「自由曲は…響也に?」
「ああ。今の実力なら問題ないし…、小日向には両方のセカンドをやってもらう」
「…それだけかい?」
「何がだ?」
「いや…、そういう変則的な事をする理由をさ、響也達に言わなくていいのか?」
「…ああ、今は余計な負担をかけたくないからな」
律は発表を待つ響也達のもとに歩きだした。
「…律の言う事は最もだけど…」
大地は不安になりながら、律の背中を眺めた。


合格発表の後、律は明日の東日本大会参加者の会合の準備をして、学校を出た。
ふと空を眺めると、今にも雨が降りそうだった。
「…早く帰らなくてはいけないな」
律がそう呟きながら門の外まで出ると…そこにかなでが立っていた。
「…どうした?」
律が尋ねると、かなでは律に向かって、ペこりとお辞儀した。
「選んでくれてありがとうございました」
「…いや、選んだのはお前の実力からだ。俺は何もしていない」
「うん…でもまた、律くんや響也と一緒の目標を持って演奏できるんだなって…。あ、部長…と…あの…」
かなでは慌てて言い直した。
いくら幼なじみとはいえ、律はオケ部部長なのだ、と思ったようだ。
律はそんなかなでに、ぽつりと言った。
「…今は律でいい。部活は終わったんだからな」
「う、うん」
「それに…俺も嬉しかったから。…お前達があそこまで上達していたのが分かったからな」
「本当?」
「ああ」
律が頷くと、かなでは嬉しそうにに笑った。
「えへへっ、嬉しいなぁ、律くんに褒められるなんて」
「そうか?」
「うん…、最近あまり調子が出なかったから、少し不安だったんだ。律くんに三年前と変わらないって言われちゃうんじゃないかって」
「…」
律はかなでの演奏を聴いていて、少し気にはなっていた。
確かにかなで自身が言うように、上達…というものは考えていた程ではない。
それに、以前のような音の輝きが見られないのだ。
だけど、それは決して失った訳ではないし、これからの努力次第で取り戻す事ができる。
先程のかなでの演奏を聴いて、律はそう思ったのだ。
そして、かなでのあの音が、星奏学院が全国制覇に欠かす事は出来ないし、その音を引き出す事を自分がしよう、と考えていた。
「でも、選ばれたからには、スランプがどうとか言っていられないもんね。頑張るよ」
かなでがそう言うと、律はそれに応えるように頷いた。
「期待している」
「…う、うん」
律の答えにかなでがなぜか真っ赤になって頷いたその時、ぽつりと何かが頬にあたった。
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