長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「あ、そうそ自由曲なんだけどね…」
かなでは思い出したようにガサゴソとバッグを取り出した。
「昨日ね、準備室で色々見つけてきたの。この中から選べないかな?」
「偉いなぁ、ひなちゃん」
大地はその中の一冊を取りながら言った。
「私一人の力じゃないんですけどね。律くんや…日野さんや月森さんに手伝ってもらったんです」
「…は?」
「如月部長と…誰ですって?」
「だから、日野さんと月森さん。昨日お二人とも学院に来ていらっしゃってて。それで色々アドバイスをくださったのよ」
「…って、律も会ったのかよ?」
「ああ。月森さんが理事長室にいたんで、ここまで案内したんだ」
「うわぁ、二人ともいいなぁ」
ハルが羨ましそうに呟いた。
「…ハルもそんな風に言う位なら、やっぱり凄いんだ、その人達」
「…って榊先輩、この学院にいて卒業生の中でも有名人な二人を知らないって…」
「いや、そこで呆れられちゃってもね…、俺はそこまでクラシックの世界は知らないし…。それで、その二人に選んでもらったの?」
「あ、はい。なんでもこれ…日野さんたちが使ったものらしいですよ?」
「マジでっ?」
響也が興奮しながら楽譜を眺めた。
「うん、なんでもご利益付きのものだから、是非使ってくれって」
「うわぁ、本当かよっ」
「そういえば、この前、もしかしたら、その二人の演奏テープがあるかもしれない、とか話していた時も、そんな風に興奮してたよね?」
「ったり前だ。この学院に来て、一番良かったって思うのはその辺りだったんだからなっ。クラシック界の有名人達がわんさか卒業しているんだからさ」
「ふぅん、ますますその人達の音楽を聴きたいかな」
「だから、宝探ししようぜ」
響也が興奮したまま言うのを、だが、律が止めた。
「いや、今日はここから自由曲を探すのが先だ」
「んな硬い事言うなよ」
「やることをやるのが先だ」
「…分かったよ」
律の言う事もごもっともなので、響也は渋々従う事にした。
そんな響也に、律はほっとしながら話を続けた。
「それに、卒業生関連の演奏については、ここ以外にも保管場所があるからな。そこにも協力してもらわなければならないだろうし」
「え?どこ?」
「…報道部だ」
「…あー」
律が言いづらい様子で答えたのも無理はない。
なにせ報道部といえば、あのニアがいる。
それに、他の部員だって、スクープを狙っているだろう。
そんな中に、ただ今学院の話題の的になっているアンサンブルメンバーが入っていったら、鴨が葱と鍋を背負って突進してきているようなものだ。
だれもそんな所に行こうなんて思わないだろう。
「…じゃあ、報道部のほうは…新学期に都合が…」
響也がそう言いかけた時だった。
「なんだ?うちの部に用事があるのか?聞いてやらないこともないぞ?」
背後からいきなりそんな声が聞こえてきたのだ。
「わわっ!…って支倉、いきなり話題に入ってくるなよなっ!」
驚かされた響也はニアを睨みながら言った。
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