長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「流石親友だな。この長い夏休みに、いい暇つぶしをどんどん提供してくれる。ふふっ、うまくすれば、卒業生からもいい記事が提供されるかもしれないしな」
「…って、月森さんや日野さんにも取材するのぉ?」
かなでが困ったように尋ねると、ニアはクスリと笑って答えた。
「何を言う?真実は追求すべきものだろう?」
「でも…お二人は卒業生なんだから、あまり迷惑をかけちゃ…」
「大丈夫だ。そのあたりはうまくやっておく。それより…彼らならあの噂が真実かどうか知っているかもしれないしな」
「噂?」
「ヴァイオリン・ロマンスって知っているか?」
ニアは持っていたメモを見ながら言った。
「知らない。…知ってる?」
かなでが律に尋ねると、律は首を横に振った。
「いや。大地は知っているか?」
「ああ、少しだけなら。確か…学内コンクールに絡んだ話で…、コンクールメンバーに選ばれた中で、期間中に恋が芽生えるとかってやつだよね?」
大地がニアに尋ねると、ニアは満足げに笑顔で頷いた。
「流石だな。なんでも昔、そのコンクールに参加したヴァイオリニスト二人が、恋をして永遠の愛を誓ったとかなんとか。先程の小日向の話だと、二人ともヴァイオリニストでコンクール参加者だ。条件がピッタリ合っている」
「…確かに」
「だから、噂が本当かどうか確かめるのにうってつけなんだ」
「だけど月森蓮って言えば、大の取材嫌いで有名だぜ?」
響也が尋ねると、ニアはニッコリと笑いながら答えた。
「逃げられないくらい、ちゃんとした裏付けなどを取っておくさ。なぁに、お前達のおかげでいい目的も出来たしな。さて…と私はこれから他の取材なども兼ねて、ウチが管理している保管庫を漁ってこよう。ではな」
ニアはそう言い置くと、するりと部屋を出ていった。
「…相変わらずだな」
律はため息をついた。
「…ごめんね」
かなではみんなに謝った。
「なんだよ、お前が謝る事じゃないって」
「そうですよ。だいたい支倉先輩が強引な取材をするのが問題なだけであって、小日向先輩がいくら支倉先輩の友達でも、そこまで気にする必要はないですよ」
「それに、うまくいきゃあ、有名人の高校時代の演奏なんて、滅多に見れないものが見れるんだからな」
響也とハルは、かなでを励ますように言った。
それらの言葉に、かなではほっとする。
…こういう仲間っていいなぁ。
しみじみとそう思った。
「…律?」
三人のそんな会話をぼんやりと見ていた律に、大地が話しかけてきた。
「…あ、なんだ?」
「いや、ぼんやりしてるから、どこか具合が悪いのかなって心配しただけ」
「すまない、考え事をしていた」
律が申し訳なさそうに、大地に言った。
だが、ぼんやりと考え事など、律には珍しい事なので、大地は心配になってしまった。
「考え事?どうかしたのか?」
「いや…響也はあんなに小日向と仲が良かったか、と…。確かに幼い頃から兄弟のように過ごして…きたが…」
「え?」
律がぽつぽつと呟くように話す事に、大地は軽く目を見開いた。
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