長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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三年。
一言で言えばあっという間の時間だが、その間、律が一人ここで色々な経験を積んだように、かなでや響也が共に重ねた時間がある。
そう、…律の知らない二人の時間。
その時間があって、今の二人があるのだ。
それは仕方ない事だ。
ただ…、何故かは分からないが、それがたまらなく嫌な気分にさせた。
かなでが律には見せない安心しきった表情を、響也に見せている、それだけで。
「…何を馬鹿な事を考えているんだか…」
「…」
そう一蹴するつもりで吐き捨てるように言ったのだが、今度は大地が黙ってしまった。
「大地、どうかしたのか?」
「いや…律、ちょっといいか?響也、ハル、ひなちゃん、悪いけどちょっとだけ律と席を外すけど、先に自由曲の選考を始めててくれないか?」
「…?」
「榊先輩、もしかしてめんどくさい事から逃げようと…」
「違う違う。ホントすぐに終わらせて戻ってくるから、よろしくね」
大地は三人にそれだけ言うと、律の腕を引っ張って、準備室を出ていったのだった。

二人はお誂え向きに空いていた練習室に入っていった。
「大地、一体どうしたんだ?」
「…ちょっと確認したい事があってね。でも、ハルはともかく…響也やひなちゃんの近くでは聞けない話だったから、さ」
「?」
大地は高校入学の頃からの付き合いだが、この親友の性格は熟知しているつもりだ。
だから下手に婉曲して尋ねると、明後日の方向の答えしか帰ってこないのも分かっている。
だから、ずばりと尋ねた。
「あのさ、お前、本当にひなちゃんは『ただの幼なじみ』か?」
「…は?」
「『特別な』幼なじみなんじゃないのか?」
「…幼なじみにただのも特別もないと思うが?」
律が眉を寄せながら答えた。
…確かに律の言う通り…と関心している暇はない。
この質問でも、天然なのかただ惚けて…いる事はない、本当に分かっていないだけだ、と大地は判断し、話を変えた。
「じゃあ、言い方を変えよう。ひなちゃんが…例えば響也と付きうるとか、俺が彼女の恋人だって言ったら…お前、どうする?」
「…そうなのか?」
まさかそんな切り返しをされるとは思わなかった大地はガクッとコケたが、…気を取り直し、返事した。
「いや…『もしも』の話だよ。もし、ひなちゃんが誰かと付き合うって事になったら、お前はどうする?」
「どうするって…別にそれは小日向の自由だから…」
「ひなちゃんじゃなくて、お前自身だよ。幼なじみとして、兄貴的立場として祝福できる?」
「…」
大地の質問の意図は分からなかったが、だんだん具体的になる話に、複雑な気持ちになってきた。
今のような安心しきった顔ではなく、誰かを想い、その相手に微笑むかなで。…その微笑みの先が自分ではない…。
「…嫌なものだな、それは」
「…だろうね」
大地はようやく自分の考え通りの答えが返ってきてほっとした。
「しかし、そんな話をする為にここまで連れてきたのか?」
「え?ああ、うん。こういう話、響也やひなちゃんの前では出来ないからね」
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