長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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先だっての学内選抜試験で響也とかなでと共に練習してきた大地には、響也がかなでをどう想っているか、を気づいていた。
めんどくさいだのなんだの言っていても、かなでの世話やきはまめだし…、なんといってもかなでの思いつきに付き合わされて嫌々、なんて言いながらも、一緒にここに転校してくる位なのだ。
誰だって分かるというものだ。
だけど、一方のかなでは…多分律を好きだ、と思う。
ああいうふわふわタイプはちょっと天然がはいっているから、なかなかそのあたり掴みづらいが、昨日三人で昼食を食べた時とか、そのあとの行動とか、今の会話や律が共にいる時の何気ない視線とか…、見る人が見れば分かる。
そして、その事を響也は気付いている。
…響也、報われないなぁ、と大地は客観的にそれを見ていた。二人のそれぞれの想いを止める必要もないと思うし、自分からそんな事をする義務を負うつもりもない。人の気持ちなんて、他人が口出しするものではないし。
ただ、もう一人の当事者である律の気持ちも分からない、というのもあったが。
だから、律がかなでを『ただの幼なじみ』程度にしか思っているのなら、響也の想いを応援してやりたい、と思った。
…そんな事を考えていた時の、律のあの発言。
…驚かない訳がない。
とはいえ、天然でそのあたり鈍さが突き抜けている親友のその言葉の真意が分からなくて、つい尋ねた訳だが。
……まさかのこの展開、どうすればいいのだろう。
まだ律本人の明確な自覚はなさそうだが、というか、そこまで思っておいてそれはないだろ?とツッコミを入れたくなるが、律がかなでを好きだとは、意外すぎる展開だ。
さて、どうしようか。
気づいてしまった以上、傍観を決め込むのは考えものだが、かといって余計な首はツッコミたくない。おかしな事をしでかして、三人の関係をおかしくしては元々子もないし。
とりあえず、このアンサンブルが潤滑にいくように、フォローしていくのが、気づいてしまった自分の一番の役割だろう。
大地はそう思いながら、律の肩を叩いた。
「その嫌な気持ちの理由を、じっくりと考えたほうがいい。俺からはそれしか言えない」
「?大地?何を言っているんだ?」
「うん、まだ分かってないだろうけど、いずれ分かると思うし。いや、出来るだけじっくりかつ早く考えて結果は出して欲しいけど…、まあ、そのあたりは律に任せるから」
「??」
親友が余計な悩みでため息をつくのを、当の律はキョトンとした顔で見つめたのだった。


そんなよく分からないアドバイスを貰った律が大地と共に戻ってくると、三人がまだうんうんと唸っていた。
「で、どっちにするんだ?」
「『我が祖国』と『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』…どちらも捨て難いですよね」
「でも、こっちもよくない?」
「いやそれを入れるなら、こっちもまだ候補から下ろせませんよ」
「だけど…」
かなでが真剣に楽譜を見つめるその姿に、律の表情がいつの間にか綻んでしまう。
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