拍手・短編

□男の子のホワイトデー〜加地編
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間もなくホワイトデーというある日の放課後。
加地は校門前で意外な人物を見かけた。
「あれ?」
彼もまた、同じ星奏学院の生徒であるから、ここで見かけてもおかしくはないのだか。
まだ彼が帰るには早いような気がしたのだ。
だから、早足で近づき、声をかけてみた。
「珍しいね、こんなに早く帰るなんて」
加地の声にくるりと振り返ったのは、学院きってのヴァイオリニスト、月森だった。
「…加地か」
月森は加地を見ると、至極クールな顔で答えた。

「今日は香穂子はオーケストラの練習があるから。それに、少し寄りたい所もあるから」
「寄りたい所?」
月森にしては、意外な言葉。
普段は家での練習もあるからか、よっぽどのことがない限り、寄り道をしないからだ。

だが、尋ねかえすと。
「…」
無言になる。
それで何をしようとしているのか、全て察してしまった。
「ああ、成る程ねぇ」
加地がは思わずにやりと笑ってしまった。
「日野さんのお返し、何にするの?」
「…何故分かった?」
驚く月森を見て、加地は思わず苦笑してしまった。
こんなわかりやすい事はないではないか。
「だって、もうじきホワイトデーでしょ?そんな時に日野さんと帰れない時を狙って買い物なんて、一つしかないじゃない?」
「…」
呆気にとられる月森という、珍しい現象に、加地は可笑しくてくすくすと笑った。
「で?何にするか決めたの?」
そして、少し興味が沸いてきたので、尋ねてみる。
しかし、その答えは意外というか、月森らしいというか。
「…いや、まだ…」
だというのだ。
そのらしさに加地も少し同情しつつ、やはり近くでさらにもう少し様子を見てみたいなんて気持ちもあって。
「ふうん。じゃあ、僕が一緒に行って、アドバイスしてあげようか?月森ってそういうの苦手そうだし」
加地はにっこりと笑いながら言った。
はっきり言って失礼極まりない言葉だったので、月森もむっとしたが。
…確かにその通りだったし、やはり困っていたのだろう。
「…頼む」
と、答えたのだった。
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