拍手・短編

□トリプルデート大作戦
2ページ/54ページ

前編〜ワクワク計画編〜

『誕生日プレゼントは、二年メンバーでお出かけの企画をたてて?』
天羽に誕生日プレゼントのリクエストを尋ねたら、そんな答えが返ってきた。
二年メンバー。
香穂子はいい。その場にいて話を聞いていたから。
それに、天羽のお願い、と言えば、拒否はないだろう。
だが、残りの二人が大問題だ。
月森と土浦。
まず素直に話したら、『なぜ俺が巻き込まれなきゃいけない』の一言で拒否されるだろう。
いや、一人ひとりに説得すれば、なんとか頷いてくれるだろうか、…お互いが来ると分かれば、絶対に嫌がる。それは加地は目にはっきりと見えている。
『『なぜコイツと一緒に出掛けなきゃならないんだ』』
…一流の音楽家らしく、見事なドルビーサウンドを聞かせてくれること請け合いだ。
それはそれで面白いが。
……いや、そんな事を考えているひまはない。
どうしたものか、と加地は悩んだすえ、香穂子に協力を願いでた。
…一人で解決するには、かなり骨が折れるし、二人のうち一人は香穂子の協力でなんとかなるだろうから。
と、いう事で、加地は上手い事一人で練習していた香穂子を捕まえたのだった。
「日野さん、今いいかな?」
練習室の入り口からそっと声をかけると、難しい顔をして楽譜に向かっていた香穂子が顔をあげた。
「なあに?加地くん」
部屋の中をキョロキョロと誰かを探す加地に、香穂子は尋ねた。
「ん?月森は…いない、よね?」
月森の名前に、香穂子顔がぴくりとひきっつった。
「いない…けど?」
それがどうかしたのか?と言わんばかりの態度に、加地は思わず怯んだ。
「あ、あれ?喧嘩でもした…の?」
恐る恐る尋ねると、香穂子は深いため息をついた。
「…月森くんね、留学する日を黙っていたの」
「…え?」
加地は目を丸くした。
「来年の夏…じゃないの?」
「ううん…三月なんだって…。オーケストラコンサートの数日後って言ってた」
「それって…また急だね?」
「うん。でもね、いつか離れるって分かっていたから、それが急だろうがなんだろうが、それはいいの。でも…それを私に黙っているのが頭にきて、…悲しくて…」
香穂子はずんと、暗い表情になってしまった。
加地はそれを見て慌てた。
憧れの香穂子にそんな顔をさされるのは、いたたまれない。
「あ、あのさ、帰りにカフェに行かない?ケーキを奢るよ」
香穂子をなんとか慰めたくて、そんな事を言ってしまった。
だが、なぜか香穂子には少し警戒されたような視線を送られてしまった。
「あ、いや下心なんてないよ、うん。そんなんで誘ったら、僕、月森に殺され…あ、いや、そうじやなくって、単純に、日野さんを励ましたくて…」
アワアワと答える加地がどこかおかしいのか、香穂子はクスクスと笑い出した。
そして。
「じゃあ、加地くんのおごりね?」
そんな事を言って了解してくれたのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ