拍手・短編

□トリプルデート大作戦
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後編〜祭が済んで日が暮れて編〜

「それじゃあ、また明日」
そう言って、香穂子は月森と、冬海は土浦と、そして天羽は…加地に送られて帰った。
「にしても…土浦と冬海さんには、仕掛けた僕もびっくりだよ」
「…」
「あ、でも僕がどうこうする前から、あの二人はお互い気になっていたみたいだけど」
「…」
「まあ、煽っていたからこそ、ここでうまくいったんだと思うんだよね」
「…」
「だから、そんなお膳立てをしてあげたんだから、土浦に奢って…って天羽さん?」
「へ?」
加地に名前を呼ばれ、天羽ははっと顔をあげた。
「な、何?」
「何って…話聞いてなかったの?」
少し呆れたように、加地に尋ねられ、天羽は申し訳なさそうに答えた。
「…ごめん、ぼんやりしてた」
「いや、別にいいけど…天羽さんらしくないね」
「…」
それは天羽も思っていた。
こんな風に他人の話を聞かないで、自分の思考に入ってしまうなど、今までなかったのだ。
「で?そんなに何を考えていたのかな?って…一つしかないか」
「…」
皆と別れてから天羽がずっと考えていたのは、もちろん、あの観覧車での加地の告白だった。
自分を好きだ、そう言ってくれた加地に、どう返事をしたらいいのか。
ずっとそればかりを考えていたのだ。
自分は加地の事をどう思っているのか。
そして、自分はどうしたいのか。
それがちゃんとわからないと、告白してくれた加地に失礼な気がするのだ。
「ごめんね、悩ませちゃって」
加地は困ったように笑いながら言った。
「え?」
「天羽さんをそんな風に悩ませるつもりはなかったんだけど」
「あ、あの…」
天羽は慌てたように加地を見上げ、そして、深いため息をついた。
「…確かにその事で考え事してた。それでつい、上の空になってたよ、ごめんね」
「え、天羽さんが謝る事はないよ?僕が…」
「うん、確かに加地くんのいきなりの告白にびっくりして、こうして悩んでいるんだけどさ。…こうして誰かと一緒にいるのに、その人を放置して、ってのはやっぱりいけないでしょ?だからごめんね」
「…うん」
加地は、天羽のこういうはっきりした性格を自分は好きになったのだ、と、改めて感じながら頷いた。
「でも…」
と、天羽がじっと加地を見ながら言葉を続けた。
「うん?」
「そんな風に一生懸命考えちゃう程、私、加地くんの事かなり気になっているって事なんだよね」
「……え?そ、それって…」
加地が頬を赤らめながら、天羽の言葉の真意を尋ねようとした、が。
「あ、ここまででいいよ、家そこだから。送ってくれてありがとう。また明日ね」
…そんな加地を放置すべく、天羽は手を振って行ってしまったのだった。
「え?そこまで気を持たせて放置?え?ええっ?」
加地はその場で脱力したのだった。


そして、先程成立したカップルである土浦と冬海はというと。
「…」
「…」
…何をどう話せはいいのかわからず、ずっと会話なく歩き続けた。
この沈黙が、苦しいような愛しいような。
そんな気持ちをお互い感じながら。
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