長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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2.不協和音

初めてのミーティングから数日後、再びミーティングの日がやってきた。
今日はやりたい曲を持ち寄り、演奏曲を決めるのだ。
そちらについては、色々とあったが、すんなり3曲きまった。
だが、現在出産間近の冬海は、演奏に参加しないことになった。
「そうだねぇ、今はあまり無理しないほうがいいかもね。動かないのもいけないけれど、演奏ってかなり体に負担をかけるし…」
香穂子はうんうんと頷きながら言った。
「…お前、なんでそんな事分かるんだ?」
無理をしてはいけない、はともかく、体に負担がかかるなど、さらっと話す香穂子に、土浦は不思議そうに尋ねた。
「え?い、一般常識でしょ?」
「…そうか?」
「そうそう」
何かを不振がる土浦に対して、香穂子は笑ってごまかした。
「それじゃあ、私はみなさんのサポート頑張りますね」
冬海はふわりと笑って言った。
「うん、宜しく頼むね。冬海ちゃんなら、細かい所気付いてくれるだろうし」
火原が嬉しそうに言うのを、香穂子はわざとらしくため息をつきながら、答えた。
「…そうねー、私じゃおおざっぱですからね」
「ええっ!そ、そんな意味で言った訳じゃないんだけど…」
「わかってますって」
焦る火原が可笑しくて、メンバーがみなクスクスと笑った。…一人を除いて。
「まったく、火原も相変わらずだね」
「そ、そんな事ないよー、柚木〜」
情けない声を出す親友に、柚木はポンポンと肩を叩いた。
「それが悪いとは言っていないよ、火原」
「そ、そうか?」
「変わってなくて安心した」
「うん、柚木も」
そんな二人のやりとりに、志水が不思議そうに尋ねた。
「先輩たち…しばらく会っていなかったんですか?」
「うん、大学生だった時は時々会っていたんだけどねー」
「社会人になってからはお互い忙しくなって、たまに電話するくらいになっていたんだよね」
そんな話のやりとりに、香穂子は少し寂しくなった。
あれだけ仲が良くても、距離が離れる事があるのだ、と。
そして、ちらりと、少し離れた場所に座る蓮を見た。
蓮は香穂子のほうを見ようとしない。
いや、香穂子も蓮がこちらを見ていないのを承知で彼を見たのだが。
そして、昔は隣にいたのが、いまはこれだけ離れている事に、寂しさを感じた。
…その距離が今の自分と彼との心の距離だ、と。
「まあ、そんなもんなんですかねぇ」
土浦はため息混じりに言った。
「そうだね。…それぞれの生活があるからね。同じ学校に通っていたり、同じ立場にいた頃とは違ってくるのは仕方ないよ…。寂しい事だけどね」
柚木は静かに答えた。
「でも、こうしてまた一緒に何か出来る事になって、嬉しいよねっ」
火原が笑顔でしんみりした空気を払拭するかのように言った。
「そうですよね、やっぱり僕たちは何かの縁があるんですよね」
加地もそれに呼応するように頷いた。
「じゃあ、再会を祝して、派手にやってやりますか」
土浦は腕を鳴らしながら言った。

こうしてコンサートに向けての練習が始まったのだった。
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