長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
2ページ/99ページ

〜Prologue

「…もう、今夜が最後なんだね…」
香穂子はベッドの中で、蓮に寄り添いながら言った。
「…」
だが、蓮はその問い掛けに何も答えない。
いや、答える事ができなかったのだ。
香穂子は高校最後の夏休みの半分を、ウィーンで過ごした。
春に行われたコンクールに優勝したのだが、その副賞が、海外への短期留学だったのだ。
「どこに行きたいですか?」
コンクールの主催者に尋ねられた時、香穂子は迷わずウィーンと答えた。
それは、クリスマスの頃からずっと付き合っていた蓮がいたから。
勿論、音楽の都と呼ばれるこの地で、音楽というのをしっかりと学びたいという気持ちもあった。
彼と共に、自分の中の音楽を高めていきたい。
そして、その成果は多分にあった。
だからこそ、もう少しここで学びたいという気持ちもあった。
だけど、やはりそんな我が儘を言える身分ではない。
留学の学費の大半はコンクールの主催者が出してはくれているが、両親にもいささか負担をかけさせている。
だから、これ以上の負担を強いてはいけない。
でも、音楽以上に彼の側を離れたくなかった。
この短い時間の中で、二人は音楽も、そしてこの恋も高めあってきたのだ。
若い二人が一線を越えるには、時間はかからない。
実は両親には内緒なのだが、この留学期間は、ほぼ同棲をしていたようなものだったのだ。
…これほど側にいたのに、再び離れ離れになるのだ。
日本で蓮がこちらに来る時に感じた以上に、寂しさを感じてしまう。
「…また、すぐに来れるように頑張るね」
そんな気持ちを振り払うかのように、香穂子は言った。
「香穂子…」
蓮は香穂子を抱き寄せた。
ふわりと風にあおられ、愛しい香りが、蓮の鼻孔をくすぐる。
…この温もりを体に刻みつけたい。次に会うまで忘れないように。
蓮は香穂子を更に強く抱きしめた。
そして、深くキスをする。
「…ん…」
キスとキスの間の香穂子の甘やかな吐息と、肌から直接感じる熱に、蓮は酔いしれる。

…二人は濃密なひと時を過ごし。


そして……。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ