長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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「…そして、あの日…貴方に会えた。…全てがリリの悪戯なのかしら、って思う位、すごくタイミングいいんだもの」
香穂子は自嘲した。
「…」
「今日の事といい…私が助けてって思う度に、必ず現れてくれる。…リリの悪戯じゃなければ、もしかしたらセンサーでもついているの?」
「…不十分だけど、そうなのかもしれない」
蓮は香穂子の頭を撫でながら、呟くように言った。
「不十分…?そんな事ないわよ」
香穂子は蓮の瞳を見つめた。
「だが、君や蒼が苦しい時に側にいてやれなかった。…きちんと機能してさえいれば、君が君の音を見失う前に駆け付ける事ができたのかもしれない…」
「…そんな事ない。私がもっと考えていればこんな事にはならなかったの。…加地くんや両親の言ったように、蒼を身篭った時に、貴方にちゃんと伝えてさえいれば…」
「だが…」
蓮はそこまで言って、不意に黙りこんでしまった。
そして、
「止めよう」
と言った。
「…え?」
「起きてしまった過去の事を、知る事はいいが、もう、それを悔やむのは止めよう。大切なのは…これからの事だから。これから君と、…蒼と作っていく未来の事だと思うから…だから…」
蓮の言いたい事を香穂子は強く感じ取り、そして、再び涙を零し始めた。
「そうね…。これからの未来は…貴方と一緒がいい」
「香穂子…」
蓮は香穂子を強く抱きしめた。…もう、手を離す事はないと誓うように。
そして、香穂子の涙を拭うように頬に、瞼に、眦に口づけを落とし。
…そして、深く口づけた。
香穂子の唇はどこまでも甘く、蓮はそれに酔いしれるように、何度も口づけた。
深く、浅く。
…もっと香穂子を感じたくて、もどかしい気持ちになる。
その時、ぎゅっと自分の背中に回った香穂子の腕に力が入った。
口づけをやめ、香穂子の顔を覗く。
すると、香穂子もそっと瞳を開き、自分を見つめかえしてきた。
その瞳は潤み、唇は誘うように甘く濡れていた。
「れ…ん?」
その唇が、自分の名前を甘く誘うと、蓮は…抑えきれなかった。
「か…ほこ…」
蓮は、クッションの利いたソファーに、香穂子を押し倒したのだった。
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