長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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7.家族

「…ん…」
蓮は自分の顔に当たる日差しで目を覚ました。
どうやらカーテンを閉めずに眠ってしまったらしい。
ふと窓を見遣ると、そこからは朝の柔らかな日差しが降り注いでいた。
「…今、何時…」
枕もとにある時計を確認しようとして…自分の腕がなにかに引っ掛かり、動かない事に気付いた。
「…!」
その原因を見て、蓮は目を丸くする。
…自分の腕のなかに、シーツに包まれた香穂子がいたからだ。
シーツのかかっていない肩の白さがなんともなまめかしく、蓮はドキリとしてしまう。
そして、昨日の事を思い出すように、理性を振り絞り、頭をフル回転させて考える。
昨日は、香穂子を家に連れてきて、いろいろと話した。
そして、はかなげでどこかに消えてしまいそうな香穂子をソファに押し倒し…。
そう、もう二度と逃がさないという思いで愛しあって……。
そして、それでもまだ足りなくて、…自分の部屋まで抱き上げて…。
記憶をたどるうちに、自分の行動が恥ずかしくなっていく。
香穂子がどう思っているのかも聞かずに、自分の欲情の赴くままに、彼女を愛してしまっていた。
……そんなに俺は彼女を求めていたのだろうか。
彼女を愛して、彼女だけした見れなくて。
それは自覚はしていたが、…ここまでとは思わなかった。
香穂子と離れていた間も、色々な女性が蓮の周りに近づいてきた。
周りから朴念仁とか唐変木とか散々言われてきた蓮には、女性からのモーションがさっぱりわからないものもあった。
だが、あからさまな女性もいたのだ。
けれど、そんな女性は蓮は全く興味が無かった。
逆に冷めた目でそんな女性を見ていた。
そして…どんな時でも、自分はただ一人しか欲しくは無かった。
音信不通になり、加地や土浦に連絡を取っても分からないといわれ…、加地は香穂子に口止めされていたようだが、一体どうしているのか分からないままで、それでも香穂子を求めていたのだ。
その香穂子が自分の腕の中にいる。…それだけで蓮の気持ちは、欲情は止まらない。
もっと欲しい。…この腕の中に閉じ込めて、もう二度と離したくない。
…香穂子には迷惑な話だろうが、嫌だと言われても、我が儘だと思われても、もう二度と手放したりしない。
そんな事を思っていると、つい腕に力が篭ってしまっていたのだろうか。
香穂子が眉を寄せながら、静かに目を開いた。
「…すまない、起こしただろうか…」
蓮が申し訳なさそうに言うと、香穂子は少し潤んだ瞳で蓮を見つめながら言った。
「…れ…ん?」
昨日の名残を残した瞳で見つめられ、愛した名残で甘くかすれた声が、蓮の中の鎮まった火を再び燃えあがらせた。
「…香穂子…」
「…ん…」
…蓮は再び香穂子の中に身を沈めたのだった。
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