長編・シリーズ

□君を繋ぐ音楽
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蓮は今日、『普通の家庭』的な経験を色々しているような気がした。
一緒にご飯食べて、息子と一緒にお風呂に入って、…川の字になって眠る。
…不思議な感じだな。
そう思いながら、隣の蒼を見る。
蒼は既に夢の中のようで、幸せそうに笑みを浮かべているように見えた。
幸せな家族の風景。
そんな言葉をしみじみと感じながら、蒼を眺めていると。
「…眠れないの?」
香穂子の声が聞こえてきた。
「…ああ」
蓮が答えると、かさこそと音が聞こえてきた。体を蓮のほうに向けたようだ。
「幸せで眠れないってあるんだね」
香穂子がしみじみと言った。
「…ああ」
本当は怒涛のように色々とあって疲れているはずなのに、気持ちが高揚していて眠れない。
「でも、これから大変よね。アンサンブルにデュエットに…結婚準備」
「…そうだな」
近々帰国する蓮の両親に事情を話し、結婚の了承をとったり。
役所に婚姻届を提出したり。
香穂子達の引越しがあったり。
蒼は再び転校の手続きをしたり。
結婚の記念写真も撮らないといけない。
ちょっと考えただけでもこれだけあるのだ。
それらを二つのコンサートの合間にやらなくてはならない。
少し大変だと身構えてしまう。
「だけど…ちょっと楽しいかな?」
香穂子は笑いながら言った。
「楽しみ?」
「そう。今まではなんでも独りでやらなければならなかったけど…これからは蓮が一緒だから」
「…そうか」
大変な事も、二人で一緒にやるから大丈夫。もしかしたら楽しいものかもしれない。
「楽しい事も苦しい事も二人で、か…」
それはいい事かもしれない。
…そんな事をつらつらと考えているうちに、香穂子も蓮もいつしか眠りについていたのだった。

翌朝。
「蓮、蒼ちゃん朝よ、起きて?」
香穂子の声と優しく揺する行為が温かくて、蓮は中々覚醒しない。
それは蒼も同じなようで。
「「…後5分…」」
二人同時にそんな事を言ったのだ。
だが、香穂子はそんな事を許すはずもなく。
「もうっ!起きなさい!」
そう言いながら布団を引きはがしたのだった。
「ほらっ。早く目を開けて!顔を洗ってすっきりしていらっしゃい!」
香穂子は寝ぼけまなこの二人の頬をペチペチと叩きながら言った。
「…」
蓮も蒼も無理矢理起こされ、不機嫌になるが、香穂子はそれに動じる事なく。
「ほらほら起きた起きた!」
と強引に腕を引っ張ったのだった。
そして、さっさと部屋を出て行く姿を見て、蓮は誓ったのだった。
…これからはもっと優しく丁寧に起こしてくれるよいに言おう、と。

……だが。
これだけは、朝のかなり弱い蓮自身の問題もあって、その後も継続されたようだった。
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