長編・シリーズ

□reunion
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蓮と土浦は睨みあった。
「お前のそういう所は昔から変わらないな」
「その言葉をそっくり君に返そう。そんな誰かが助けてくれるだろえなんて甘い気持ちで音楽をやられていては迷惑だ。特にこういった大所帯でやるものでは」
「とはいっても、コンミス初心者にそれをすぐに求めるのは無茶苦茶だ」
「無茶苦茶でもなんでもやるしかないんだろう?」
「…」
土浦も蓮の考えに賛同する点はあるが、それは無茶な気がした。
だが、いくらそう言っても、この石頭は考えを変えようとしない。
早水のほうを見れば、いきなりの対立に、しかも自分が論争の的になっている事にオロオロするばかり。
先程の厭味な程の余裕はどこにも見当たらない。
これでは二人のいさかいを止める話ではない、と思っていると、ガタリと火原が立ち上がった。
「二人ともっ、喧嘩はよくないってばっっ」
そして、二人の間に割って入った。
「確かに月森くんの言う事ももっともだけど、もう少し、ほんの少しだけでいいから大目に見てあげようよ?ね?土浦も、月森くんにそんな喧嘩ごしになるのはよくないって。ほら、そんな喧嘩なんてやってる時間なんてないんでしょ?」
「「…はい」」
二人は火原のなだめで、ようやく矛を納めた。
だが、なんとなく二人の間にぎこちないものを残しながら、再び練習を始めた。

そして…。
「なんだなんだ?今度は第1主張しすぎだぞ?」
土浦は慌てて演奏を止めた。
「おい、早水、もう少し周りを見てやってくれ。お前の暴走がメンバーに伝わっているぞ?」
土浦がそう指摘すると、今まで何も言わなかった早水がむっとした様子で反論した。
「でも、こうしないと月森さんの音に合いません」
「…」
土浦は早水の反論にため息をついた。
「だ、そうだ。月森?」
確かに蓮の演奏に合わせようとすると、暴走は免れない。
土浦もそれに気付いていた。
だが、今度は、蓮の言動に何かを感じ、すぐにはかみつかなかった。
「なら、それをきちんと伝えてくれないか?」
「え?」
「コンミスは指揮と一緒に音楽を作り出していくものだろう?もし、何か違和感を感じたら、それを指摘するのも重要な役割だと思うが?」
蓮は真っすぐ早水を見ながら言った。

「でもっ、それは…」
「音楽を創るものに、上も下もないと思うが?」
蓮は早水の反論を抑えこんだ。
「君が香穂子を否定するのを、俺は否定しない。人によって、考える音楽というのは変わるものだし、それが相入れない所もあるというのも分かる。だが…否定するなら、それなりの結果を見せてくれないと困る」
「…日野先輩はそれが出来ていたというんですか?」
早水は少しむっとしながら言った。
それは、蓮の言うのが理想論で、そこを否定することが出来なかったから。
では、香穂子が出来ていたというのか?
出来なかったから、こういう結果になったのではないのか?
そんな態度の早水に、蓮はため息をついた。
「香穂子は努力していた。だが、それを君が無駄にしていなかったか?」
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