長編・シリーズ

□reunion
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表面上は笑顔を浮かべている加地と天羽だが、内心は何やら含むところがあるように、香穂子には見受けられた。
だから、思わず震える声で尋ねた。
「な、なななななんで!?」
「んー?香穂子のお母さんから偶然聞き出しちゃったんだよねぇ」
「僕は君達より早く帰国した、日野さんの先生から。明日帰ってくるって」
「あ、あそう…」
…蛇に睨まれた蛙とは、こんな気分になるのだろう。
香穂子は背中にじっとりと汗をかきはじめた。
なにせ笑顔なのに、背後のオーラが怖いのだ。
「まさか月森君も一緒だとは思わなかったけどね?」
天羽はちらりと蓮を見ながら言った。
「あー、そうそう。仕事で海外に行くって言っていたけどさ。まさか日野さん追っかけて行くなんて、ねえ?」
加地も恨みつらみを含ませながら言った。
…何故ここまで追い詰められなければならないんだろうか?
香穂子と蓮は深いため息をついた。
「…事後報告になるのは、大変申し訳ないと思っております。おりますから、そんなに追い詰めるように言わないで?」
「そうだ。これには色々深い理由が…」
「理由、ねえ?」
加地はじとっと蓮を睨んだ。
「ぢゃあその理由とやらを、ぢくりと聞いてあげようぢゃないか」
「「え?」」
「安心しなさいな。横浜までたっっっぷり距離があるから、全て聞いてあげれるわよ?」
天羽は四人分の特急のチケットを見せながら、ニヤリと笑った。
……万事休す。
香穂子と蓮はそんな言葉が頭をよぎったのだった。

そして、電車の中でも。
「で?海外での月森の仕事って何?もしや日野さん絡みだったから言えなかった訳?」
とか。
「本当はコンクールの最中も毎日のように会っていたんぢゃないの?」
とか。
「で?告白はどっちから?どう返事したの?」
とか。
「ほお?ぢゃあ、私たちがどうしてるかな?なんて心配してた頃も、遠いブダペストやらウィーンやらでバカップル万歳してたって訳ね?」
とか。
「てか、昼も夜もラブラブ?」
とか。
「まさか、香穂子と結婚までしちゃったとか?」
などなど。
ストレートかつ、核心に迫るような質問を天羽と加地から浴びせられ。
香穂子達は横浜に到着するころには、どどっと疲れが溜まっていたのだった。


「ちぇっ、残念だけどここまでにしておいてやるか」
そう言って、ようやく二人を解放してくれたのは、間もなく最寄り駅に近づいてきた時だった。
香穂子達は深く息を吐いて、目一杯ほっとした。
「…そういう態度が、私達に挑戦しているようなもんなんだけど?」
だが、あまりにもあからさま過ぎて、天羽のご機嫌を損ねてしまったのだが。
「まあまあ。でも、やっと二人で歩きだせたんだから、その手、離さないようにしなきゃね?」
駅に到着すると、加地は二人にそんな事を言い残し、天羽と共に香穂子達と別れて帰っていったのだった。
「加地に言われなくても…」
蓮は香穂子の手をきゅっと握りながら、呟くように言った。
「…うん」
香穂子もその手を握りかえしたのだった。
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