長編・シリーズ

□reunion
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Epilogue〜もう一通のラブレター

あれから数ヶ月後。
「ねえ、蓮?この本こっちでいいかしら?」
「ああ」
二人はウィーンでの新居で、引っ越しの荷物解きに勤しんでいた。
香穂子は本を棚に並べながら、ふと自分の指に光るリングに目をやった。
…なんだかまだ実感が湧かないんだけど、ね。
帰国後、まず二人は香穂子の両親に、留学について相談した。
始めは渋ったものの、『それが香穂子の未来の為ならば』、と了解してくれた。
だが、その留学先で、蓮と同棲するという話になると、流石の両親もそれを反対した。
当たり前だろう。大切な娘を、親からみればどこの誰だかもよく分からない男と暮らすなんて、許せる話でもない。
すると。
『…では、香穂子さんと結婚するなら了承していただけますか?』
蓮は香穂子も驚くような事を言い出したのだ。
籍も入っていない男女が共に暮らすのがダメなら、結婚してしまえばいい。
それは、前から蓮が考えていた事だが、香穂子にも黙っていたのでかなりの騒動になってしまったのだが。
…最後は香穂子の両親も折れてくれた。
なので、二人は今、婚約の段階にいる。
籍は次に日本に帰ってきた時にという事になったのだ。
これを天羽達に報告したところ、…開いた口が塞がらないといった様子で。
『月森みたいなタイプって、決断までウダウダするのに、決まった途端暴走するよね?』
と聞こえの良くないコメントをもらったのだった。

本を片付けながら、その事を思い出し、香穂子はクスクスと笑った。
と、その時、持っていた本から、ひらりと何かが落ちてきた。
一体何か、と拾ってみると、それは手紙だった。
しかも、それは『日野香穂子様』と、自分宛てのものだった。
香穂子は不思議に思った。
今片付けているのは、蓮の持っていた本で、自分のものではない。それに、このような手紙は見たことがなかった。
…一体誰が?と、裏に返して目を丸くする。
それは蓮からのものだったのだ。
封が開いていたので、その中身を香穂子が覗くと…。

その頃、今までパタパタと音を立てていた香穂子のいる部屋の音がピタリと止まり、蓮は不思議に思っていた。
休憩しているのか?と時計をみると、確かに休むにはちょうどいい頃合いで。
自分もまた休憩しようと香穂子に声をかけに向かった。
「香穂子、そろそろ休憩しよう…」
「蓮…」
部屋に入り、蓮は驚いた。
香穂子が目に涙を溜めていたのだ。
そして、蓮の姿を見つけると、そのまま飛び付いてきたのだった。
「か、香穂子?」
いきなりの行為に、蓮は驚いた。
だが、動揺する蓮に気付かず、香穂子はぎゅっと蓮を抱きしめ…。
「蓮の馬鹿」
と突然言い出したのだ。
「…は?」
いきなり抱き着いてきて、いきなり馬鹿呼ばわりされ、蓮は戸惑った。
「馬鹿馬鹿馬鹿!なんであの時、これをくれなかったの?」
「…これ?…あっ!」
香穂子が何を言っているのか分からないままだった蓮も、香穂子の持っていたものを見つけ、目を丸くした。
それは…蓮が留学前に香穂子に宛てて書いたラブレターだった。
皆で見送りに来てくれると聞いた時、何かのタイミングで渡そうと、前日に書いたのだが、…結局タイミングがあわず、渡せずじまいになっていたのだ。
そして、苦い思いとともに、どこかの本に挟み込んでしまったのだが、今、数年越しに、宛先の主に届いてしまったのだ。
「あの時、これをくれれば、もっと早く…貴方のそばにいられたかもしれないのに…」
「…すまない。あの時はこれで精一杯だったんだ」
蓮はぎゅっと香穂子を抱きしめた。
香穂子の気持ちも分からなかった。
もし両思いだとしても、日本に置き去りのままになる事も分かっていた。
だからこそ、タイミングがないからと言い訳がましく、それを香穂子に手渡す事が出来なかったのだ。
「…もう、仕方ないんだから」
香穂子は抱きしめる腕に力を込めた。
「でも、その分更に絆が深まったから…ま、いいか」
「…ああ」
蓮は頷くと、上を向いた香穂子に、優しいキスを送った。
…これからはどんな時も二人で。
それを約束するようなキスだった。
「…さて、と、もう少し休もう。紅茶をいれるよ」
「ありがとう…。あ、そうた」
香穂子は蓮の腕に自分のそれを絡めながら言った。
「私も、貴方に見せたいものがあったの」
「え?」
「あとで見せてあげるね?」
…あの時やはり渡す事が出来なかった、貴方宛てのラブレターを。
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