長編・シリーズ

□reunion
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なんとなく会話がなくて、二人で黙って歩いた。
…何を話せばいいのだろう?
考えてみれば、あの頃も、こうして二人で歩く事があったが、今から思えば、一体何を話していたのだろうか。
そんな事を考えながら、ちらりと蓮の表情を伺う。
相変わらずの綺麗な顔立ちに、ドキドキしてしまうのは…仕方がない。
でも、目元や口元からは、あの頃のまだまだ少年だというような部分はすっかり消えてしまい、かなり大人びた面差しとなっている。
もともと大人っぽい感じはしていたが、本当に大人になってしまったようだ。
…なら自分は?
三年経って、こうして再会した自分は、彼の目にはどう映っているのだろうか。
そんな事を考えていると。
「…他の皆はどうしてる?」
蓮のほうから話しかけてきた。
「他…の?ああ、柚木先輩達?」
「ああ。確か柚木先輩は外部の大学に進んだはず…だよな?」
「うん。家業の為に音楽ではなくて、経営のほうの大学に進んだんだよ。あ、でもフルートは続けているんだって。火原先輩とはまだ連絡を取り合っているとかで、時々話を聞くよ。加地くんはうちの文学部に進学したんだ」
「…文学部?」
蓮は軽く目を丸くしながら尋ねた。
「そう、国文学で近代文学を勉強してる」
「そうか…」
「志水くんもうちに進学したけど、大学では作曲を専門にやりたいからって、オケには不参加なんだ。それがちょっと残念」
「天羽さんは?」
「外部の大学。ジャーナリズムの研究とかいってた」
「…天羽さんらしいな」
「でしょう?」
香穂子はクスクスと笑いながら答えた。
穏やかな時間。
…こんな時間がずっと続けばいいのに。
香穂子はそう思いながら、蓮に尋ねた。
「月森くんは?いろんなコンクールで、優秀な成績っていうのはよく聞いていたけど…」
定期演奏会までにはまだ時間がある。
それなのに、こんなに早く帰国するというのは、他に何か理由があるのだろう、と、香穂子は思ったのだ。
「…向こうの音楽院を出て、母の知り合いの楽団に所属させてもらっている。とはいっても、ソリストでやっているから、プロデュース的なものをやってもらうだけなんだが…」
「そうなんだ」
「それで…そこに日本のレコード会社からCDの発売のオファーが来て…、その打ち合わせとレコーディングもあって、少し早めに戻ってきたんだ」
「CD?!」
今度は香穂子が驚いた。
そして、自分の中の焦りが再び現れてくる。
……みんな、それぞれの進路が見えているのだ、と。
だが、そんな事を見せる事はせず、香穂子は少し大仰に驚いてみせた。
「凄いなぁ、流石月森くん。あ、出来上がったら、一枚ちょうだいね?」
「…ああ」
蓮が頷くのを見て、香穂子は嬉しそうに微笑んだ。

そして、いつもの分かれ道まで到着すると、香穂子は名残惜しげに蓮に言った。
「じゃあ、これから宜しく」
「…君の演奏を聴くのを楽しみにしている」
蓮もまた、そう言って、帰路へとついた。
香穂子はその姿を見つめながら、再び始まる蓮との音楽の日々に、胸をときめかしたのだった。
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