長編・シリーズ

□reunion
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3.合宿〜一日目

それからのオケ練習は、小さなもめ事など、僅かなトラブルがあったものの、順調に仕上がってきている…ように見えた。
ように、とは表面的には、という事で、香穂子は少しだけ不安があった。
…あの一件以来、見た目は香穂子の言う事に従っているように見える早水だが、言葉の端や態度が微妙にまだしっくり来ないのだ。
それから、もう一つだけ…気になっている事があるのだ。
それは、…早水の蓮を見る視線だ。
あれは自分と同じもの。蓮を想う瞳。
それは、香穂子しか気付かない淡いものだから、そんな視線を気にしていない蓮は全く気付いていない。
それがいいのか悪いのか。
香穂子はそれが不安でならなかったのだった。

不安を抱えたまま、夏休みに入り、すぐに3泊4日の合宿に入った。
香穂子は冬海と同室になった。
「なんか高校の時を思い出すね」
香穂子は荷解きをしながら言った。
「そうですね、あの時も香穂先輩と一緒でしたし」
冬海も嬉しそうに答えた。
「あれは…コンミス試験の時?」
「そうでしたね、理事長が別荘を提供してくださって…」
「そうそう。みんな私の為に頑張ってくれて…、あそこまでやってコンミスになれなかったら、私、みんなに申し訳なかったよね」
「ふふっ、私達全員、香穂先輩を信じてましたから、絶対にコンミスになるって。特に…月森先輩は…」
冬海が言った名前に、香穂子はどきっとした。
…さっき合宿所に入る時に、顔を合わせた。
「お互い頑張ろう」
そう言って微笑んでくれた時、香穂子の心臓は、今までにない位ドキドキしていた。
…どうしよう、高校のあの頃よりも好きになっている。
好きだという気持ちが、こんなにも深くて強いものだ、と初めて知った。
「そ、そうかな?」
香穂子は、そんな気持ちを抑えるかのように、冬海に答えた。
「ええ。でも…そういえばあの時、月森先輩が起きてこないって、志水くんが困ってましたよね?」
「そういえばそんな事あったねぇ」
香穂子もその時の事を思い出して、クスクスと笑った。
あの時、香穂子に困ったと言ってきたので、起こしに行ったのだ。
そして…寝ぼけてぼうっとしていた蓮を見て、少し驚いた。
いつでも完璧な、そんなイメージがあったからだが。
「…次は気をつける」
そんな事を言ってくれたのだが。…次はいつ?と問い掛けると、珍しく慌てた様子を見せたのを思い出し、思わずクスクス笑ってしまった。
「香穂先輩?」
いきなり笑い出した香穂子を見て、冬海が不思議そうに尋ねた。
「あ、ご、ゴメンね。あの時の事を思い出したら」
クスクスと香穂子は笑いが止まらない。
もしかしたら、今も朝が弱いのかしら?
「そういえば、月森くんて誰と同室なのかしら?」
もし、朝相変わらずであれば、同室の人は起こすのが大変だろう。
「月森先輩とですか?確か…梁太郎さんだった気がしますが?」
心配する香穂子の隣で、冬海があっさりと答えたのだった。
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