長編・シリーズ

□reunion
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「…まったく、何で俺がお前と…」
蓮のとなりで、土浦がブツブツと文句を垂れていた。
「…」
それはこっちが言いたい。
そう言いそうになって、蓮は途中で止めたのだが。
蓮だって、この部屋割りには異論がある。
昔のいきさつを知っていれば、こんなことは考えないはずだ。
その部屋割りを聞いた火原なんて、本気で心配そうにしていた。
しかも。
「…俺、どっちかと変わってあげようか?」
とまで言ってくれたのだ。
せっかくの好意を受けようか、とも思ったのだが。
この部屋割りを決めた講師の意図も分かり、…ある意味お人よしな蓮や土浦は、我慢のほうを選んだのだ。
…実はオケの練習が本格的になるにつれ、指揮をしている土浦と、メインを演奏する蓮の間で、衝突が増えていっているのだ。
まだ、周りを不安にさせるような大きなものは起こしていないから、他のメンバーはさほど心配していないだろう。
それは、コンミスの香穂子がうまい緩衝材になっているというのもあるが。
ただ、香穂子のカバーできる事も限界がある訳で、それを越える前までに、二人の間に相互理解を謀ろうと講師が考えたのが、この相部屋だったのだ。
つまり、寝食を共にすることによって、二人の間に理解を深め、分かりあってもらおう、というのだ。
だが、相互理解なら充分できていると…思う。
伊達に高校時代に同じコンクールでしのぎを削っていた訳ではない。
だから、これ以上理解を深めるのはどうか、と思う。
そもそもお互いの音楽の方向性が違うのだし、共通しているのは、音楽については妥協しない、という事だけだ。
だから、こんな事をしても、逆にお互いのストレスを溜めるだけで、いいことはない…と思う。
多分土浦も同じ事を考えているはずだ。
だが、蓮も土浦もその反対する理由をうまく説明できないうえに、お互い意地っ張りで、相手が言い出すまでは、この相部屋を変えようとは言い出せずにいたのだった。
とにかく、嫌でもこの合宿中は二人一緒の部屋な訳で、理解する…までは言わないけれど、少しはわかりあえるように努力しようと考えた。
…それが大人の態度というものだ、と自分に納得させ、蓮はヴァイオリンケースを持った。
「どこに行くんだ?」
まだ荷物の整理をしていた土浦が尋ねた。
「少し個人練習をしてくる。合同練習までには戻ってくる」
「そうか」
土浦はそれだけ言うと手をヒラヒラとさせた。いってらっしゃいのジェスチャーらしい。
蓮はそれをちらりと横目で眺めながら、部屋を出ていった。

「さて、と」
どこで練習しようか、と考えていると、パタパタと足音が聞こえた。
「あ、月森くん、そこの部屋なの?」
やはりヴァイオリンケースを持った香穂子が、月森のもとに向かってかけてきたのだ。
「ああ…君は?」
「偶然ね、この部屋の真上なの」
香穂子はクスクスと笑いながら言った。
「これから練習しようと思って、階段を降りてきたんだけど…月森くんも?」
「ああ」
蓮はこくりと頷いた。
「なら、もしよかった…一緒に練習しない?」
蓮の答えを聞いて、香穂子がそんな提案をしてきた。
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