長編・シリーズ

□reunion
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練習場への道すがら、今日の会合について話題があがった。
「定期コンサートの話かしら?」
「…だろうな。に、しても少し話が早いだろ?まだ6月だぜ?」
学内オケは毎年9月と3月に実施される。
文化祭的なものと、卒業生追い出し的なものだ。
その間にも、不定期でいくつか行ったりするものだが、そんな話なら、参加者全員集まれ、という話にはならない。
そんな理由があり、二人は首を捻った。
「でも、ま、行けばわかるだろ?」
「それもそうね」
二人は暢気にそんな事を言いながら、歩みを進めた。
その時、前からきた男子学生が香穂子に声をかけてきた。
「よ、日野これからどこに行くんだ?」
「学内オケのミーティングだよ」
「なんだ、せっかくデートに誘おうかなって思ったのに」
「あははは、ごめんね」
香穂子は男子学生に手を振って答えた。
再び歩きだすと、また別の男子学生が香穂子に声をかけてきた。
「今日これから飲み会なんだけど行かないか?」
「ごめーん、用事があるの」
「またかよ。たまには付き合えよな?」
「はいはい」
香穂子は再び手を振って応えた。
「…」
そんな香穂子を、土浦はじっと見ていた。
「…?どうかした?」
香穂子がその視線が気になって尋ねると、小さくため息をついた。
「『鋼鉄のマドンナ』って本当なんだな?」
「…は?」
香穂子は少し眉を吊り上げた。
…『鋼鉄のマドンナ』とは微妙な言い回しだ。
「いや…お前って大学入学以来、男からの誘いを断り続けているっていうからさ。いや、こうして間近でそれを見るとは思わなかった」
「…別に全てを断っている訳ではないのよ?」
「かもしれないな。俺や加地からの誘いは断らないし」
「…ちょっとあからさますぎだったかしら?」
香穂子は土浦の言葉に苦笑した。
「まあな。それに、お前の誘いを受ける、断るの理由が分かるから、そのあだ名も確かにって思える事があるぜ?」
「……あははっ、流石指揮者の卵。洞察力が凄いね」
「…茶化すなよ」
土浦はおどける香穂子を見て、深いため息をついた。
「俺や加地の事は異性として見ていない、自分が傷付くような事を言わせたいのか、お前は」
「あら、彼女持ちが彼女以外からそんな風に見られたいなんて思っていたの?」
「……日野…」
土浦は更に盛大なため息をついた。
確かに土浦には彼女がいる。
香穂子もよく知る彼女だし、彼女以外の女性からそんな風に見られようとは思わない。
確かにそうなのだが…香穂子の言葉は自分の言葉をごまかすかのようで、少し不愉快に思えた。
「ごめんごめん、でも、彼女一筋浮気なんて絶対しない相手じゃないと、あまり男の子と遊ぼうって確かに思わないわね」
香穂子は困ったように笑いながら言った。
「それはどうしてだって…聞いたら悪いな」
「あはは、ごめんね」
香穂子は笑ってごまかした。
「まあ、今はこれが恋人だから」
そう言いながら、ヴァイオリンケースを掲げる香穂子を見て、土浦は苦笑した。
「ま、そういう事にしておいてやるよ」
「そうそう、そういう事にしておいて」
香穂子はぽん、と土浦の背中を叩いた。
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