長編・シリーズ

□reunion
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食事が終わり、それぞれが自室に戻るなか、香穂子は蓮に呼び止められた。
「明日、今日の練習部分で曖昧になっていた部分をすっきりさせたいんだが…少し練習に付き合ってくれないか?」
「いいよ?朝ご飯前?後?」
「出来れば前がいい。…食事した後はどうしても頭の動きが鈍るから」
「…」
香穂子は少し目を丸くしながら蓮を眺めた。
その様子がかなり気になり、蓮は眉を潜めながら尋ねた。
「なんだ?」
「えーと、…起きれる?」
香穂子が苦笑いしながら、そんな事を尋ねてきたので、少しむっとしながら答えた。
「大丈夫だ」
「だ、だよねぇ…」
香穂子はそう言って頷きながらも納得していないようで、苦笑しながら頭を掻いていた。
「…なんなら俺が君を起こしにいってやろうか?」
疑心暗鬼というような香穂子の態度に、蓮はかなり心外で腹がたち、つい、そんな売り言葉のような事を言ってしまう。
すると、香穂子はぼんっという音が聞こえてきそうなほど真っ赤になりながら、首を横に振った。
「わ、わわわ私は大丈夫よっっ。もしダメなら冬海ちゃんに起こしてもらうからっっ」
「そうか…それは少しざんね…いや、何でもない」
蓮はつい本音を漏らしそうになり、慌てて口をつぐんだ。
だが、蓮のトンデモ発言であわあわしている香穂子は、それに気付いていないようで、手で顔をパタパタと扇いでいた。
「じゃ、じゃあ、朝この階段辺りで待っているね?」
香穂子が階段を昇りながら言うと、蓮は小さく頷いた。
「ああ、じゃあ、明日」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
二人は別れてそれぞれの部屋にむかった。

そんな二人を見て、土浦は呆れたように見ていた。
「…なんだあのバカップル会話は?」
「あははは」
冬海もただ苦笑するしかない。
あれでまだつき合っていないなんて、嘘だろう?と、二人を知らなければ思うだろう。
「本当にじれったい奴らだ」
「…」
冬海はつい土浦の顔を見てしまった。
…それ、貴方が言いますか?とつっこみたくなる。
そんな事を言ったら、後が大変そうな予感がするので止めるが。
「まあ、きっときっかけがつかめないだけですよ」
「きっかけ、ねえ…」
土浦は呟きながらため息をついた。
どうもこうもどかしいのは性格にあわない。
とはいえ、そんなきっかけをどう作るのか?
そんな事を考えていた時、そういえば、と思い出した事があった。
「悪いが、日野に伝言をお願いできるか?」
「え?ええ…」
土浦は思い出した事を冬海に伝えると、部屋に戻っていったのだった。

部屋に戻ると、香穂子は譜読みをしている最中だった。
「お帰り、冬海ちゃん」
「ただいま、先輩。えーと今、大丈夫ですか?」
冬海が尋ねると、香穂子は楽譜から視線を外し、頷いてくれた。
「いいよ。何?」
「あの、梁太郎さんからの伝言なんですが…明日からスペシャルゲストが来る事になったので、その心積もりをよろしく、ですって」
「ゲスト?」
蓮以外にそんな人物がいるのか?だが、そんな話はきいていないし、今からの参加というのもありえないように思えた。
「はい、実は…」
冬海がそのゲストの名前を告げると、香穂子は目を丸くしたのだった。
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