長編・シリーズ

□reunion
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5.合宿三日目

香穂子は結局あまり眠れないまま、朝も早く起きてしまった。
だけど、頭はやけに冴えざえとしているのは…昨日の興奮が残っているからだろうか?
まだ起きるには早い時間時間ではあるが、再び眠りにつくのは難しい感じだ。
なので、少し外を散歩することにした。
そして、香穂子はまだ眠りの中の冬海を起こさないように、服を着替えて部屋を出た。
廊下に出ると、まだ皆は休んでいるようで、しん、と静まり返っていた。
そんななか、合宿所の外に出ると、まだ夜のひんやりとした残滓を残した空気が香穂子の体を包みこんできた。
「カーディガン羽織ってくればよかったかな?」
ほんのわずかだが、寒さを感じた香穂子は、そうつぶやく。
とはいえ、昇り始めた太陽は夏の熱さを発している。
「今日も熱くなりそうね」
香穂子は眩しそうに太陽を見上げ、そんな事をひとりごちながら、散歩に出かけた。
さくさくさく、と静かな景色を楽しみながら歩く。穏やかで心地好い時間だ。
…だが、一人こうしていると、昨日の事をどうしても思い出してしまう。
特に、リリに驚かされてから、蓮に抱き上げられたあと。
申し訳なさげに「重いでしょう?」と心配したのに、蓮は「そうだな」と答えて。その言い草にむっとしながら、香穂子はわざと蓮に体重を預けた。
…だけど…何が『必殺子泣きじじい』なんだか。
あの時、確かに蓮も彼らしからぬ意地悪な事を言っていた。
それに対して…あれはないだろう。
香穂子は自分のしでかした事が恥ずかしくなった。
そして、熱くなった頬を冷ますべく、顔をパタパタと扇いだ。
昨日の自分はきっと、何かに取り憑かれていたのだ。
でなければ、あんな態度なんて取らないだろう。
そして、自分のしでかした事に恥ずかしさの他に、蓮に申し訳なさも感じていた。
いくらパニックになっていたとはいえ、何度も飛びついたり、抱きしめたり…。
…多分きっと、自分の事はなんとも想っていないだろうに。
好きでもない子に飛びつかれるなんて、迷惑以外のなにものでもないだろうし。
今日会ったら謝らなくては。
昨日かなり迷惑をかけてごめんなさい、と。
香穂子がそう思っていると、どこからかヴァイオリンの音色が聞こえてきた。
それは、道の先、確か森のあるほうから聞こえてくる。
…この音は…。
香穂子はドキドキしながら、その音色を再確認してみる。
オケ部なのだから、たくさんのヴァイオリンの音色があって、時々聞き分けができないが、これだけはすぐにわかった。
…もしかして。
香穂子はその音色の聴こえるほうに走りだした。
そして、その先にいる人物が、自分の考えていた人と同じ事が分かり、ほっと息をついた。
そして、少し荒くなった息を整え、それから相手の演奏の区切りのいいところまで待つと。
「おはよう、月森くん」
と声をかけたのだった。
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