長編・シリーズ

□reunion
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「…夕方の事だが…」
蓮は徐に口を開いた。
「俺と早水さんのやりとりを見て、君は逃げるように行ってしまった。それは何故、と聞いていいだろうか?」
「それは…」
香穂子は思わず蓮から視線を逸らしてしまった。
「…それは?」
「え?」
「それは何故だ?」
蓮は強い視線で香穂子を見つめている。
それは逃げるな、のサイン。
香穂子はその瞳に捕らえられ、何も考えられなくなる。
そして、つるりと滑り出した言葉は。
「…嫌だったの、自分が」
「嫌?」
「…うん。だって…早水さんが月森くんの隣にいるんだもの。そこに、その場所にいるのは私じゃなきゃ嫌だって…。そんなわがままな事を考える自分が、とても嫌だったの…」
お酒の入った頭では、普段抑えようと考える事もタガが外れてしまうのか、何も考えずについそんな言葉が出てしまった。
「…日野…」
香穂子は名前を呼ばれて、はっとなった。
「ご、ごめんね。今のは忘れてっっ」
香穂子は酔いを覚ますように、烏龍茶をごくごくと飲み、風にあたるように窓辺にたった。
だけど、言った事はもう取り戻せない。
香穂子がそっと蓮の様子を伺うと、蓮は持っていたビールを煽るように飲んでいた。
そんならしくない飲み方に、香穂子が目を丸くしていると、蓮は香穂子に視線を向けた。
そして。
「…今の言葉は本当か?」
と尋ねてきた。
「…え?」
「俺の隣は君しかいない。それは君の本音か?」
「…」
香穂子は言葉に詰まった。
それは、彼がその言葉を嬉しいと捕らえたのか、迷惑と捕らえたのか、判断がつかなかったのだ。
…もし、迷惑と感じているのに、頷いてしまったら、かなり気まずくなるだろう。
でも…ここで聞き返してくれたのだから、と思うと彼もまた同じ事を考えていてくれるのか、とも思ってしまう。
そんななかなか回らない思考に、香穂子が戸惑っていると、それに焦れたのか、蓮が香穂子に近づいてきた。
そして、香穂子をぐいっと引き寄せると、自分の懐に抱えこむように抱きしめてきたのだ。
「…つきも……!」
いきなり抱きしめられた香穂子は、驚いて顔を上げた。
すると、そんな香穂子の行動がお見通しだというように、蓮の唇が香穂子のそれに落ちてきた。
初めは啄むように軽く。
そして、何度がそれを繰り返していくうちに、口づけは段々深くなっていく。
香穂子は初めてのキスに酔ってしまった。
何故?と思うよりも前に、体がふわふわしてしまい、自分ではないような感覚に捕われはじめる。
そして、自分の力で立っていられなくなり、思わず蓮にしな垂れかかってしまった。
「ごっごめ…」
香穂子は慌てて体を離そうとした。
だが、自分で立つ力もなく、また、意外なほど強い蓮の腕の力で、離れることができない。
「…香穂子」
そして、耳元で囁かれる自分の名前にぞくりとしてしまう。
そんな香穂子に、蓮は再びキスの嵐を送り。
……気が付くと、香穂子はベッドに押し倒されていたのだった。
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