長編・シリーズ

□reunion
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「…ん…」
窓からこぼれてくる僅かな光が眩しくて、香穂子は目を覚ました。
「…今、なん…じ…」
ごそごそとベッドから降りようとした時、色々な違和感を覚えた。
まずは服。
今、香穂子は何も着ていなかったのだ。
熱くて脱いだ…というにはかなりおかしくて、まさに一糸纏わぬ姿、という感じなのだ。
更に、置いてあるものや雰囲気が、合宿所の香穂子が利用している部屋とは違う。
サイドテーブルに置いてある時計や携帯は、香穂子や冬海が持っているような華奢なデザインではなく、がっしりした男性のものだった。
そして、今、香穂子が枕にしていたものは、どう見ても人の腕で。
…人の腕?
やっとお酒の抜けてきた頭を必死に動かしながら、その腕の先を確認する。
「…えっ!」
香穂子は驚きつつも、相手を起こさないように、手で口を抑えながら声をあげた。
…その腕の持ち主は、蓮だったからだ。
シーツがはだけて見える蓮の上半身もまた、何も身に纏っていない。
「…これは…」
香穂子は更に頭を回転させ、昨日の事を思いだそうとした。
宴会で冬海が倒れ、それを心配していた土浦に看病を頼んだ。
そして部屋を出たところで蓮に声をかけられ、この部屋に。そして…。
香穂子は思い出した途端、顔から火を噴き出したかのように真っ赤になってしまった。
……なんであんなに大胆に…。
蓮にされた事、自分でした事。
言った言葉、囁かれた内容。
何かしら夢を見ているかのような感覚に捕われる。
だけど、今のこの姿や、体のあちこちに感じる鈍い痛みが、それが夢でなかった事の確かな証拠であった。
香穂子は寝ている蓮の姿をじっと見つめた。
…いつもは意地悪だと思う位クールだと思っていたのに。
あんなに激しい感情を持っていたのか、と驚いてしまう。
だけど。
蓮はしたたかに酒を飲んでいた訳で。
考えたくもないが、お酒のせいであんな事をしたのではないのか、と不安になってしまう。
…起きたら聞くべきだろうか。でも、この嫌な予感が本当だったら?
そんな不安が増していく香穂子の耳に、携帯の鈍いバイブレーターの音が聞こえた。
それはテーブルの上にあった香穂子の携帯のもので、香穂子は慌ててベッドから起きて、それをとった。
「も、もしもし?」
蓮を起こさないように、と声を潜めて話し掛けると、受話器から土浦の申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
『悪いな、寝てたか?』
「…大丈夫、今起きたとこ」
部屋に備え付けの時計を確認すると、今は6時少し前。
確かに少し早過ぎる時間かもしれない。
「あ、そろそろ戻らないとまずい、か」
だが、早い人は下手をしたら起き出す時間だ。
『ああ、すまないが早く来てくれないか?』
「うん、ちょっと待っててね」
香穂子は電話を切ると、慌てて身支度を整えた。
そして、少し名残おしそうに蓮を見つめた後、部屋を出ていったのだった。
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