長編・シリーズ

□reunion
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「うん、…うん、今日野さんと一緒。…そう、その合宿に僕も参加して…、いや、違うよ」
香穂子は楽しそうな加地の様子をぼんやりとみていた。
…そういえば、最近付き合いだしたって言ってたっけ?
蓮に会った報告を天羽にした時に、ついでのように。
その場でどういう事かと聞いてみたかったが、うまくかわされてしまって、それっきりだった。
今、バタバタしているため、時間が取れなさそうだが、いずれ時間を見て、問い詰めてやろう。いや、その前に加地を締めてみるとか…。
でも…その前に聞いて欲しい事がある、親友に。
そんな事をぶつぶつと考えていると、加地の手がにゅっと香穂子の鼻先に伸びてきた。
そして、持っていた携帯を香穂子に差し出しながら言った。
「天羽さんが変われって」
かなり不満げにそう言いながら、加地は香穂子に携帯を渡してくれた。
「はい?」
電話を受け取り、耳にあてると、電話の向こう側から元気な天羽の声が聞こえてきた。
『やほー。元気?』
明るい声に、香穂子の顔も綻ぶ。
「元気よー。天羽ちゃんも元気そうでなによりよ」
『あははっ、私はそれだけが取り柄だからねぇ』
天羽はからからと笑いながら答えた。
「で?」
『でって?』
「いや、私に用事があるから変わって欲しいって思ったんじゃないの?」
『あらやだ、違うわよ』
天羽はあっさりと否定した。
「え?でも…」
『だって近くに香穂子にいるっていうから、声が聞きたくなって』
だって最近あまりじっくりお話してなかったから。
そんな香穂子をじんとさせるような事を言ってくれた。
だから、今までどうしようかな、と思っていた事をつるりと口に出してみた。
「あ、ならさぁ、近々会おうか?色々話したい事もあるし」
香穂子がそう提案すると、天羽が嬉しそうに言った。
『あ、じゃあ明日は?』
「明日?」
香穂子がそう尋ねると、側で拗ねていた加地がぎょっとした顔になった。
その様子からすると、明日デートに誘おうとか考えていたに違いない。
…最近やたらと自分や蓮を引っ掻き回しているのだから、少しは逆襲してもいいよね?
香穂子はわざとらしくニヤリと笑いながら頷いた。
「いいよー、明日ならオケの練習もないし」
香穂子の答えを聞いて、加地の顔は更にぎょっとする。
『わあ、それラッキー』
恋人の気持ちに気付いていない天羽が即座に頷いた。
そして、わざとらしく加地にはっきりと聞かせるように頷いてみせた。
「明日11時に、駅前の噴水前で待ち合わせしようか」
『オッケーオッケー。明日11時ね。楽しみしてるわね』
「あ、じゃあ加地くんに変わるわね」
香穂子はそう言って電話を加地に渡した。
「ごめんね〜」
とわざとらしく言いながら。
「…日野さんの鬼…」
加地はジトリと香穂子を睨んだ。
だが、電話をそのまま放っておく訳にもいかず、その場から出ていく香穂子を追いかけていく事はできずに見送ったのだった。


そして、怒涛のような合宿は終わりを告げたのだった。
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