長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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河野とコンサートを楽しみ、そこで別れると、香穂子は家に帰った。
部屋に入り、荷物を置くと、香穂子は一つため息をついた。
と、その時、バッグの中の携帯が鳴った。
「はい?」
『新進ヴァイオリニスト日野香穂子の浮気現場をキャッチ!って記事を載せてもよろしくて?』
「…天羽ちゃん」
香穂子は親友の言葉にため息をついた。
『さっき街中でアンタを見つけたから声をかけようと思っていたんだけど、なんだか優しそうなイケメンとデート中みたいだったから、声かけづらかったわ』
「…デートじゃないわよ。仕事の延長みたいなものよ。河野さんとはそんなんじゃないし」
『あら?そんなんじゃって、どんなんじゃ?』
「…」
香穂子は親友の追求に、再びため息をついた。
本当に天羽の追求は厳しい。
『…香穂子、月森くんとはその後どうなの?』
あまり触れたくない部分までこうやって触れてくるからだ。
ジャーナリストとしての知的好奇心だけでなく、香穂子の友人としても心配しているのは分かる。
だから、香穂子は静かに答えた。
「…私からも連絡入れてないし、あっちからもないわよ」
『…このまま自然消滅を考えているの?』
「…」
『私が言ってもさ、アンタ達の問題だからどうしようもないのは分かっているけど…、正直このままって良くないと思うよ?』
「うん…」
『元に戻るにしても…別れるにしても、さ』
「…」
『まあ、香穂子だけにこんな事言っても仕方ないんだけどさ…。でも、個人的には、アンタ達には元の二人に戻って欲しいって思う。…今の月森くんと離れている香穂子より、月森くんと付き合っていた頃の香穂子のほうが輝いていたから、さ。やっぱり二人が二人でいるのが一番だと思うし』
「…」
香穂子は天羽に返す言葉がなかった。

その後、香穂子はとりとめない話を天羽とひとしきりした後、電話を切った。
そして、少し温めのお風呂に浸りながら、天羽の言葉を噛み締めた。
蓮と連絡を取り合わなくなって、どれくらい経っただろうか。…二年くらいか。
ある事があってから、気まずい感じになり、香穂子は蓮に連絡をすることがなくなった。
彼から連絡が来ても、無視をしたり。
そうこうするうちに、蓮からの連絡も途絶え…。
天羽の言う通り、自然消滅…という感じになっている。
いや、本当に終わったのかどうかすら分からない、曖昧な状態で。
確かにどう転ぶにしても、もう一度彼に会って、はっきりとさせるべきなのだろう。
だけど…それをするには、香穂子には勇気が必要だった。
あんな感じで音信を途絶えさせておいて、自分から連絡するなんて、今更な気がする。
蓮だって、すでに終わった事と、別の人と歩んでいるかもしれない。
…そうだったら馬鹿みたいじゃない。
それに、今も蓮を好きかどうか…そのあたりもはっきりとしない。
そんな自分の気持ちの曖昧さに、香穂子はため息をついた。
…もし、何かしらあって、彼と再会した時、自分はどうするのだろうか。
それこそ分からない香穂子だった。
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