長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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かなでがぼんやりとしていると、声の主が呆れたように言った。
「おい、俺が声をかけているのに、無視か?」
「…って、私に話し掛けてきていたんですか?」
かなでが恐る恐る尋ねると、その人物は更に呆れたように答えた。
「ここに俺達とお前しかいないんだぜ?誰に話し掛けると思うんだ?」
「いえ、だって私は地味子なんて名前じゃありませんし…それに…あなたは…」
かなでは不思議に思った。
…この人、そしてそのとなりで優雅に寛ぐ長髪の男性は一体誰なのだろうか?
その時、男子棟の階段のほうから、響也の慌てたような声が聞こえてきた。
「な、なんだ?一晩で何が起きたんだ?」
「…うるせえなぁ。朝っぱらからがたがた騒ぐんじゃねえよ」
謎の人物は、三度呆れたように言った。
「仕方ねぇだろ?朝起きたら、寮がピカピカに…って、あんた誰だ?」
響也は謎の人物を見て、怪しそうに眉を寄せた。
「あん?俺が誰だか知らねえのか?…お前如月律に似ているな。血縁かなにかか?」
「…如月律はアニキだけど…ってだからお前は…」
話がいったりきたりするなか、響也が目を白黒させていると、そこに律がのそのそとやってきた。
「響也、朝から騒がしくするな…。ん?東金、来ていたのか」
律は響也と言い争っていた人物…東金というらしい…を見て、呑気に尋ねた。
「ああ、わざわざ神戸から足を運んできてやったぜ?」
「…って、律、こいつらは?」
ワナワナと手を震わせながら、響也が尋ねると、律はさらりと答えた。
「神戸神南高校管弦楽部部長、東金千秋だ。隣は…」
「副部長の土岐蓬生。よろしゅう」
土岐はゆったりとかなでに近づき、手を取った。
「さっきはすまんなぁ。千秋が失礼な事言って」
「…地味子を地味子と言っただけだ」
東金は自分の主張が正しい事を強調したいように言った。
と。
「…やっぱり…これ…千秋の仕業だったか」
八木沢が頭を抱えてやってきた。
「おう、雪もここに泊まってたのか?」
「…昨日からお世話になっているんだ…。朝起きたら内装が変わっていたから…、デザインからまさか、とは思ったけど…」
「世話になるんだから、これくらい当然だろ?」
東金は当たり前のように胸を張った。
「…やり過ぎだよ」
そんな東金を見て、八木沢はため息をついた。
そんな二人を見て、響也は目を丸くして尋ねた。
「あんたら、知り合いだったのか?」
「ええ、僕の母と千秋の母が古くからの友人で…」
「まあ、ガキの頃からの顔見知りって訳だ」
「「…」」
「そうか」
「…律あっさりしすぎ」
響也はそういう話に無関心な兄に呆れながら呟いた。
しかし…人との繋がりは分からないものだ、とかなではつくづく思ったのだった。
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