長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「そう。…まあこればっかりはひなちゃんにはどうも出来ないよ。…二人が自分の気持ちにちゃんと整理が出来ないとね」
「…はあ」
「まあ、二人とも、そろそろそういう事に自分で対応出来ないとね。いつまでもひなちゃんを心配させているってのは、ね。だから、ひなちゃんは黙って二人を見守ってなさい」
「はい…」
かなでは分からない事があったが、大地の言葉を信用することにした。
そして、…もうひとつの心配事も相談することにした。
「あの…それで…大地先輩には、東金さんの言っていた『華』が何なのか、わかりますか?」
「うーん、なんだろうねぇ」
大地は腕を組み、唸った。
「俺は彼らの演奏を聞いていないから、よくは分からないけど、派手なパフォーマンスだったんだろう?」
「はい」
「つまり、彼らの『華』は、その派手さなんだろうね」
「…なるほど」
あの華やかな演奏が華というものなのか。
かなでがなんとなくしっくりしたとき、大地が『だけど』と付け加えた。
「だけど、ひなちゃんは彼らの『華』とは違う『華』なんじゃないかな?ひなちゃんがああいう派手な雰囲気を持っているとは思えないし」
「なるほど…」
かなでは大地の言葉に納得がいった。
確かに自分と彼らでは性格もなにもかも違う。
「だから、ひなちゃんはひなちゃんらしい華を見つければいいよ。その努力に俺の力が必要なら言ってくれれば何でもするから」
「はいっ」
「うん、いい返事だ。…響也もこれくらい素直に先輩を敬ってくれればいいのになぁ」
「あははっ」
二人がそんな話で笑いあったとき、部屋のドアが慌ただしく開けられた。
「かなでっ」
「小日向先輩っ」
「「無事っっ?」」
最後の質問が見事にリンクし、かなではキョトンとしてしまった。
「無事って?私は別に?」
「「良かった」」
二人はかなでの返事にほっとしたように息をついた。
「さっき飲み物買って帰ろうとした時、律がどっかに行くのを見かけて」
「という事は今、この部屋に榊先輩と小日向先輩が二人きりって事でしょう?だから慌てて戻ってきたんです」
「あー、その様子だと本当に何もなかったんだな。良かった良かった」
二人が安心したように言うので、彼らが何を言いたいのか分からなかったかなでは更に戸惑った。
だが、当の大地はその理由が分かったらしく、ニッコリと張り付いた笑顔をみせなから、二人の頭をゲンコツで殴った。
「いたっ」
「なにすんだよっ」
「…それが先輩に対する態度か?」
大地は笑いながらも、目は笑っていないという、器用な状態で二人に尋ねた。
「…それを言うなら、普段からそういう態度を取っていればいいんですよ」
「そうそう。大地が女に軽いって思われるのが一番いけない」
「…二人とも、いい覚悟だ」
大地は売られた喧嘩を買い…、かなでが止める間もなく、部屋じゅうで追いかけっこが始まり…。
…戻ってきた律に止められ、こんこんと叱られるまで続いたのだった。
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