長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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(3)Side律×かなで

確かにリスト上全てのヴァイオリン奏者のテストが終わったはずなのに、まだ残っているというのはおかしい。
律がそう思って、再びリスト確認をしようとした時だった。
ドア付近がにわかに騒がしくなり、一体何があったのか、とそちらに目をやって…驚いた。
そこに、響也と…かなでがいたのだ。
「響也?か…小日向?」
「り、律くん?」
かなでは大きな丸い瞳を更に大きくさせながら、律を見ていた。
三年ぶり…位に見た弟と幼なじみは、記憶の中の彼等より、幾分大人になったような気がした。
「お前達、どうしてここに?」
動揺を上手く隠しながら尋ねると、響也が不機嫌そうに答えた。
「今日からここの生徒になったんだよ」
「…そうなのか?」
こちらに来てから、家族と連絡をあまりしていなかった律は、その言葉に少し驚いた。
「…親父から連絡行っているかと思ったけど?」
響也が嫌味ったらしく言った。
「…あった、か?」
最近コンクールの事ばかり気にしていて、他の事を考えている余裕がなかった。
だから、もしかしたら連絡があったかもしれないが、律の記憶からは消えてしまっていた。
「いきなり俺らが行くのに、親父やお袋がなにも言わないはずがないだろうが。まともに聞いてなかっただけだろ?」
「…すまない」
「別にいいけどな。ライバルにすらならない弟の存在なんて、三年前から抜けているんだろうしな」
ちっと舌打ちしながら、響也が言い捨てた。
少しきつい言葉だが、律には返す言葉が見つからなかった。
…一部誤解があったが、確かに響也やかなでの事を忘れていたのは確かなのだから。
「まあまあ、落ち着いて」
険悪なムードになる律と響也の間に、律の隣に立っていた大地が間に入った。
「そうか、君、律の弟か。俺は榊大地。オケ部の副部長。よろしく」
そう言いながら、響也に手を差し延べてきた。
そんな大地の、人懐っこい笑顔と雰囲気に、トンがっていた響也もつい雰囲気を緩めてしまう。
「如月響也。で、こっちが小日向かなで」
響也はついでのようにかなでを紹介した。
「小日向かなでちゃん?かわいい名前だね?」
「よ、よろしくお願いします…」
女の子なら、大地のこんな柔らかい笑顔にドキドキしない訳がなく、かなでも頬を赤らめながら握手した。
「うーん、律がうらやましいよ。こんなにかわいい女の子が小さな頃からそばにいたんだからね」
本気なのか冗談なのか分からない事を大地はさらりと言ってみせるので、かなでは更に真っ赤になった。
だが…そんなかなでの様子が、響也も、そして、…律も少し面白くなかった。
「…自己紹介が終わったなら、話を元に戻そう」
律はそう半ば話題を戻した。
「それで?転校してきたのは分かったが、何故ここにいる?」
「オケ部の様子を見に来たら、なんだか誤解されてここに連れ込まれたんだよ。一体なんなんだか…」
「そうか…」
律は二人を見ながら考えた。
二人ともオケ部に入る予定だろうか。
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