長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「ま、そのあたり月森は諦め悪いよね」
「悪かったな」
「別に悪い…とは言ってないよ。だけど日野さんをそこまで愛してるなんて思わなかったな」
「…そうか?」
「うん。月森っていつもクールだったでしょ?確かに日野さんにはでろでろに甘かった所もあるけど」
「で、でろでろって…」
加地の言葉に何となく恥ずかしくなった蓮は顔を赤らめるが、それが加地にはさらには可笑しくて。
「うん、もう、日野さんの全てが大好きだって言ってたような、そんな感じ」
「…」
蓮は加地の言葉に、撃沈した。
「そんなに…俺は香穂子を好きだとは…」
「え?それは今も変わらないよね?」
加地はニヤニヤ笑いながら言った。
…先程のハプニングを見られてしまったのもいけなかったようだ。
蓮は加地に相談を持ち掛けた事を、今更ながらに後悔した。
「ま、そんなんだから、僕に聞きたい事もあったんだろうけど…、それで何が聞きたいの?」
加地は何もかも見透かしていたように、急に真面目な顔になって尋ねてきた。
蓮は加地のそんな勘のよさに、有り難いような困ったような表情をしながら、本題に入る事にした。
「…君は…香穂子の怪我の事を知っているか?」
「怪我?日野さん怪我したの?」
「いや…今ではないんだが…、何年か前に、腱鞘炎を起こしたというのを聞いて…」
「え?その話?というか、月森知らないの?」
「…え?」
加地の驚いた表情に、蓮は逆に目を丸くした。
「…ああ、でもそうか。日野さんわざと月森に話さなかったのかな?…だよね、うん」
何か思い当たったように、蓮には不穏な言葉を、加地はぶつぶつと呟いた。
「…加地?」
「あ、いや…その…聞こえ…てた?」
「香穂子が何故俺にわざと話さなかった?君はその理由を知っているのか?」
蓮は詰め寄るように尋ねると、加地は困ったように顔をしかめた。
それは、加地にとっては、香穂子は詳しくは知らないが、その事実を蓮に知られたくないのが分かったし、だけど蓮はどうしても知りたがっているのが分かるからだ。
どちらの主張を尊重すべきか、加地は迷った。
そして…今の状況が、二人には最適ではないのは分かっているので、それを打破するには蓮に話す事だと判断した。
「…僕には、日野さんが何故そこまで君に話したがらないのか理由は分からないから、その時の状況をそのまま客観的にしか話せないけど、それでいい?」
「構わない。それで俺達の間にある溝がどうにかなるなら」
蓮は強い眼差しで加地を見つめながら言った。
「…そこまで言われたら話さないといけないね」
加地は苦笑しながら小さく頷いた。
そして。
「僕が日野さんから聞いた話もあるから、間違っている所もあるかもしれないけれど…」
そう前置きをした後で話し出した。
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