長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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(3)Side律×かなで

かなでが1stを務める事が決定してから、一日の練習の数時間を、律とのマンツーマンに割く事になった。
…ふたりきり、という甘い様子は全くなく、とにかくスパルタな時間だった。
しかも、「だめだ」と言われるのがほとんどで、ではそのダメな理由を、というと、なかなか言ってくれないので、かなでは戸惑うしかない。
「反復していくうちに分かるものがある」
としか言わない事もあり、それが更にかなでを混乱させる。
今は、一人で練習していたが、かなでは律の言いたい事がさっぱり分からず、うなだれていた。
そして今も。
「…それではだめだ」
また同じ事を言われ、かなでは途方にくれた。
一体なにが「ダメ」なのだろう。
少し涙目になって律を見つめると、律は小さくため息をついて言った。
「…今日はここまでにしよう」
「…え?」
かなでは驚いて律を見つめた。
すると律は、何も言わないで練習室を出ていってしまったのだ。
「…どうしよう」
かなでが途方にくれていると、入れ替わるように香穂子がはいってきた。
そして、何故か一緒に響也もいたのだ。
「かなでちゃん、どうかしたの?」
深刻そうなかなでの表情に、香穂子も眉を寄せた。
そして、香穂子の柔らかい声に、かなでは声を詰まらせた。
「…わっ、わかんないんです…」
「…え?」
「私っ、これからどうすればいいんでしょう?…」
かなではそこまで言うと、ポロポロと涙を零してしまった。
ヴァイオリンに涙をかけてはいけないと、慌てて拭うが、涙は止まらない。
「お、落ち着こ?とりあえず、ね?」
香穂子は慌ててハンカチを取り出した。
そして、かなでの涙を拭いてあげていると、響也がムッとした表情を見せながら言った。
「律のせいだろ?」
「え?」
「あいつの変な教え方がいけないんだろ?」
「…」
スバリ図星に、かなでは思わず黙ってしまった。
「変な教え方?」
事情を知らない香穂子が尋ねると、響也は吐き捨てるように言った。
「何回やっても『ダメだ』の一点張りで、何がどうダメなのか言わない。そんなんじゃ教えられるかなでも分からねぇよ」
「…ちょっと演奏を聞かせてもらっていい?」
「…はい」
かなでは香穂子に言われる通り、演奏してみた。
「…」
香穂子はじっとそれを聴いていたが、何か納得したように頷いてかなでの演奏を止めた。
「うん、そっか…」
「…あの…」
かなでにはさっぱり分からず、キョトンとしていると、香穂子はクスリと笑った。
「これはよっぽど客観的に聴くか、かなでちゃんの演奏を知らなければ、分からないかな?私もここまで聴いて分かったくらいだし…」
「え?」
「多分今日はこれ以上練習するな、って言われた?」
「はい」
「なら如月くんの言う通りにすればいいわ。きっと明日にはその理由が分かるから」
「…なんだか意味が分からないんですけど?」
香穂子の言葉の真意が分からない響也が拗ねたように言うと、香穂子とかなではクスクスと笑った。
「なんだかお兄ちゃんとられた気分?」
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