長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「お前ら、オケ部に入部したいのか?」
律がそう尋ねると、響也は不機嫌そうに頷いた。
「でなきゃここまで来やしないと思うけど?」
響也が不機嫌そうに答えると、背後から声があがった。
「部長に対してその態度は失礼でしょう?!」
「あん?何だ?」
響也は言葉の投げられたほうに顔を向けた。
そこには赤いラインの入ったシャツを着た少年が立っていた。
少年はツカツカと響也に近づきながら言った。
「部長の弟だかなんだか知りませんが、その年長の方に対する態度はどうかと言ったんです」
「うるせえな。いつもこうなんだから、律も気にしちゃいないだろ」
「部長が気にするとかしないとかではなくてですね…」
「まあまあまあま、二人とも」
二人の喧嘩に、慌てて大地が入ってきた。
「ハルの言い分も分かるけど、律は別に気にしていなさそうだから、あまり心配しなくていいよ」
「はあ…」
確かに律はこの騒ぎ…ではないことを考えているのか、あさっての方向を見ていた。
「うん?どうかしたのか?水嶋、」
「…いえ」
確かに律が気にしてないことが分かると、水嶋と呼ばれた少年はしゅんとしながら引き下がった。
「ハル、心配してくれてありがと」
言葉の足りない律に変わって大地がハルに言った。
「で?部長さん?この騒ぎをどう収拾させるんだ?」
「…選抜試験をやり直ししたいと考えている」
律は響也とかなでを見ながら言った。
「試験をやり直し?」
「ああ。もう一度試験を仕切りなおして、響也や小日向にも参加してもらう」
「…はあ?」
律の案に、響也が目を丸くする。
だが、そんな弟の様子にお構いなしで、律は話をさくさくと進めていく。
「お前達がオケ部に入部するなら、参加資格がある。それに、俺もお前達がこの三年でどれくらい成長したのか、それを聞いてみたい」
「いやまて。勝手に話を進めるなよな?」
響也は暴走する律を慌てて止めた。
「俺達は今お前らが何をしようとしてるのか知らないんだぜ?一体何のオーディションなんだ?それに、はなっから俺やかなでが参加する話になっているが、参加するなんてこれっぽっちも言ってないんだけど?」
「そうだったか?」
律は今までの流れを思い出しながら答えた。…確かに言っていなかったような気がする。
「それは済まなかったね」
律に代わって大地が再び間に入った。
「えーと、オーディションだったね。これは近々開かれる学生音楽コンクールへ参加するアンサンブルメンバーを選定するもので。一番優秀なメンバーでアンサンブルを組む為のいわばテストみたいなものさ。まあ、君達は来たばかりだし、参加するしないは君達が自由に考えてもらえばいいと思う。…だよな、律?」
大地がくるりと振り返って尋ねると、律はコクリと頷いた。
「ああ。だが、俺個人としては、優秀な人材は広く探していきたいから、お前達にも参加してもらいたい。どうか?」
律はいつもの迷いのない眼差しで二人を見ながら尋ねた。
「…へえ?お前からそんな言葉が出てくるなんて思わなかった」
響也が挑発的な眼差しで、律を睨んだ。
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