長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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(4)Side蓮×香穂子

アンサンブルの様子を見に香穂子は学院に行った。
そして、音楽室の前で、かなでを心配していた響也とばったり出くわしたのだ。
「あいつ、何を考えているかわかんないっすよ」
響也は今のかなでと律の様子を香穂子に話して聞かせた。
「…」
香穂子はその話に、思わず苦笑してしまった。
…数年前の私を見ているみたいね。
いつも練習のとき、蓮にも同じ事を言われていた。
最も、香穂子はヴァイオリンに関しては初心者に近かったから、蓮が何も言わない、という事はなかったが、時々香穂子にはわからない事を言って困った事があったのだ。
そんな経験から、二人の事を心配して、様子を見に行った。
だが、律は既におらず、途方にくれていたかなでだけが残っていたのだ。
それは少し心配な感じもあったが、香穂子の経験と、響也の助けで、幾分か気持ちを持ち直してくれた。
…言葉足らずな人を好きになるというのは、大変なのよねぇ。
香穂子は後を響也に任せて、一人律の様子を見に行った。
そして、今度はやはり律の様子を見にきたという大地と出くわし、二人で律を探した。
かなでがいる練習室からそう遠くない場所で練習していたのを見つけ…、その音を聞いて慌てて止めに入った。
…あのまま練習していたら、怪我を更にひどくさせてしまう。
それは…香穂子自身が犯した事もある過ちで、出来れば律にはそんな事をして欲しくなかった。
そして、律がそんな無茶苦茶をしてしまった理由も、何となく分かってしまった。
…何かを忘れたくて、その理由をヴァイオリンに集中することにしたのだ。
だけど、やってもやっても集中なんて出来ない。
…自分をどんどん追い込むような負の連鎖を犯している。
多分それは無意識で、誰かが止めてくれないと止まらない。
そして…律は…かなでの事を忘れたくてそんな事をしているのだと思った。
だからこそ香穂子は律の無茶を止めたかった。
つい夢中になって話していたために、勘のいい大地に何かを気付かされそうになってしまったが。
なんとか律にアドバイスを終えて部屋を出て…そして驚いた。
「その話、彼らだけの話じゃないよね?」
いつからかそこに加地がいたのだ。
「…加地くん…どうして?」
香穂子が目をまるくして加地を見つめていると、加地は苦笑しながら答えた。
「僕だってここのOBだからね。いてもおかしくないでしょ?」
「でも…」
「今日は有給休暇もらっててさ。ちょっとリフレッシュしようかなって思ってたら、そういえばこの前、月森が後輩たちが面白い事をしてるって言ってたなぁって思い出して、ちょっと見てみたくなったって訳」
加地はちらりと練習室内の律と大地を見た。
「…あれがアンサンブルの?」
「そう。音楽科の制服がヴァイオリンの如月律くん。普通科の制服のほうがヴィオラの榊大地くんよ」
「ふうん?」
加地は二人を見て、クスリと笑った。
「昔の僕たちみたいだね」
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