長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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…僕たち?
香穂子は一瞬キョトンとしたが、何を言いたいのかがわかり、クスクスと笑った。
「確かに似てるけど…ちょっと違うかも」
「え?」
「だって榊くんは加地くんみたいに、如月くんからうっとおしがられる事ないもの。」
「…それって僕ってば月森からうっとおしいって思われているって言いたい訳?」
「そこまで嫌がってはいないと思うけど、…そうねぇ、たまぁにウザいかな程度?」
「…程度って結局ウザいって事だろ?」
「かもね」
香穂子があっさりと頷くと、加地はがくっと肩を落とした。
「…日野さんひどいや」
「あはははっ」
酷く凹む加地を見て、香穂子は可笑しそうに笑った。
「まあ、月森くんが加地くんをは嫌ってないんだから、良しとしなきゃね」
「…」
「加地くん?」
ここで、「だよね?そうだよね?」と頷くか、「…それ、慰めにもなっていないから」とうっとおしく凹むかどちらかがくるか、と思ったのだが。
急に黙り込む加地に、香穂子は不思議そうに尋ねた。
「…日野さん、いつから月森の事、名字で呼ぶようになったの?」
だが、加地は香穂子の痛い所を突くような事を尋ねてきたのだ。
「…え?」
「ずっと聞きたくて、でも、恐くて聞けなかった。…だけど、この前月森から話を聞いて、…ねえ、君たちは本当に別れたの?」
加地の問い掛けに、香穂子はドキッとした。
「それは…」
香穂子はちらりと練習室を見た。
律と大地は自分達の話に夢中で、香穂子達には気付いていない。だけど、あまり聞かれたくはない話だ。
「…向こうで話そうか?」
加地も香穂子の考える事が分かったようで、香穂子を促して場所を移動した。

二人が向かったのは、屋上だった。
「…ここもあまり変わりないね」
「そうね…」
香穂子は風に揺れる風見鶏ならぬ風見ファータを見ながら言った。
「場所は変わらないけど…人の気持ちは変わるものよね」
香穂子は静かに言った。
「それは…月森を嫌いって事?」
「…嫌いになれたら…悩まないかな、こんなに」
香穂子は苦笑しながら答えた。
「…加地くんってばやたらと勘がいいから、下手にごまかしが利かないのが困るよね。それって…ヴィオラって楽器を扱うからかしら?」
「…え?」
「さっき会ったでしょ?今のアンサンブルのヴィオラ担当の榊くん。彼もそんなタイプだったから」
「…かもね」
加地はクスクスと笑いながら頷いた。
「アンサンブルを内側から支えるのが担当だからね。やっぱり周りを観察することに慣れているかもしれない」
「…そうね」
香穂子はグランドで部活をしている生徒を見ながら言った。
「だからここで加地くんに嘘をついても、きっとばれちゃうし…その様子だと、拒否権なんて許す訳ないわよね」
「うん」
加地はきっぱりと言いきった。
「僕は今でも君のファンだし、月森の友達だから。…二人の為に何かしたいという気持ちは変わりないんだ。だからこそ、本当の話をして欲しい」
「…でも…話せないんだ」
香穂子は困ったように笑いながら答えた。
それは加地には意外な返事だった。
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