長編・シリーズ

□長い冬の後に君と
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「…理想っていわれるような事はしてないよ、…私も月森くんも…」
絶賛された香穂子は困ったような眉を寄せながら言った。
「そうですか?同じ目標に、…途中で道が別れても、その先はまた再び結ばれている。…そう確信できるような強くてちょっとやそっとじゃ離れない絆をいつも感じてました。…私も梁太郎さんとそういう結び付きが欲しいなっていつも思ってました」
「…いやだから…」
「で、だ。多分お前も月森も、今でもその絆を信じている所がある」
土浦はニッコリと笑いながら言った。
「アレの魔法はちょっとやそっとじゃ済まないからな。…まあ、魔法なんてなくても、お前らなら、ずっとそうだと思うがな」
「私は…」
「先輩、先輩はまだ月森先輩を好きなんですよね?」
冬海は戸惑う香穂子に、断定するかのように尋ねた。
「先輩がそうやって戸惑うのも、まだ月森先輩が心の中にいるから、なんですよね?」
「…」
香穂子は困ったような表情を見せたが…否定しなかった。
それは…自分の気持ちが、冬海の言い当てた通りだと思うからだろう。
「…素敵ですね、妖精に祝福された恋なんて」
かなでは三人の話に、ほうっと息をついた。
「私も…そういう恋がしてみたいです」
…その時の相手は…律くんがいいな。
かなではちらりと律を見ながら言った。
だが、それに対する律の反応はなく、少しだけがっかりしていると。
「そうだね、…ああもしなかなか見つからなかったら、ひなちゃんのその相手、俺が立候補しようかな?」
大地はかなでにウィンクしながら、そんな事を言ってのけた。
「えっ、ええっ!」
「なっ、大地!」
「先輩!何どさくさに紛れてナンパしてるんですかっ?」
「やだなぁ、…もしも、って言っただろ?ひなちゃんが見つけたらこの話はない訳だし…」
「…って問題じゃねぇだろ?」
「そうですっ!だいたい榊先輩は…」
…そんないつものメンバーのじゃれあいを、律とかなではため息をついて眺めた。
「すいません、変なほうに話がいっちゃって」
「…ううん、まあ…ちょっと話がそれたのにはほっとしたというか…」
謝罪するかなでに、香穂子が苦笑しながら答えた。
だが、今まで練習を見てもらったりして、香穂子と蓮の様子を見てきたかなでには、冬海の言葉はあながち嘘ではないような気がしてきた。
「私も…日野さんみたいな恋をしたいです」
「…」
だから、宣言するように香穂子にそう告げたのだった。

土浦に初めて指導してもらったその日は、こんな風に賑やかに終わったのだが。

…そんな話をしていたのが嘘のような事件が数日後に起きるとは、ここにいる誰もが思わなかったのだった。

…それは…みんなの飲み物やおやつを買い出しに、かなでがコンビニに行った時に見つけた週刊誌からだった。
「…うそっ!」
かなでは、その記事を読んだ時、思わずそう叫ばずにはいられなかった。
それは…本当に目を疑いたくなるような記事だった。
「…これ…本当なのかしら?」
かなでは買い出しの中にその週刊誌を突っ込み、買い物を済ませた。
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